会長挨拶

 神経回路というと,何を思い浮かべるでしょうか? 学術用語でありながら,この言葉ほど様々なものを指す言葉は珍しいのではないでしょうか。ここ何十年かの神経科学の発展によって,神経細胞とその結合の仕方が少しずつわかってきました。これを組み合わせて,脳内にある神経細胞が形成する回路を解析したり予測したりすることができます。また,特定の脳機能,たとえば知覚や認知などを実現するためにどのような回路が必要かを研究することもできます。私たちの心や意思でさえ,神経回路網によって実現されているに違いありません。こういった学問をするのが,最も直接的な神経回路学でしょう。

 神経回路はそういった生理学・解剖学や神経科学に留まりません。神経系のもつ認知・記憶・意思あるいは符号化や情報処理の原理を理解するためのモデルも神経回路(網)です。さらに神経系の理解と同時に,人類がまだ発明していない革新的で有用な原理や処理の数理的・工学的な提案も神経回路学ができることです。90年代のNeural Networks ,最近の Deep Learning などはその典型例と言えるでしょう。

 神経回路学は,生理学・心理学から情報科学・数理科学・統計学・工学まで及ぶ幅広い分野を網羅した,まさに学際的で最先端の学問です。神経回路学会は,こういった様々な背景を持ちながら,神経回路に興味を持つ研究者たちが,お互いの研究を紹介し,知識の交換・普及をするために設立されたものです。学会の開催や学会誌の発行をはじめ,若手研究者の育成,新しい研究会への補助や勉強会の開催など,様々な事業を実施しています。国際的にも,国際神経回路学会(INNS)・欧州神経回路学会(ENNS)と共同したNeural Networks誌の編集刊行,アジア太平洋神経回路会議(APNNA) のメンバーとして国際学会 ICONIPの共催などを始めとした様々な貢献をしています。

 神経回路に少しでも興味をもたれた方は,ぜひ一度,学会の事業にご参加下さい。皆様にお目にかかり,神経回路について一緒に語り合えることを楽しみにしています。

2015年春  酒井 宏