タイトル:一次視覚野の特徴抽出性の形成メカニズムとニューロン活動の統合 講  師:佐藤宏道 レポーター:加藤 聡・加藤 荘志 \section{0. はじめに} 夕べ皆さんが論文で悩まされたBarlowは、80過ぎてから子供を作りました。人間じ みたというか、人間離れしたというか、すごいなと思うのですが、彼も昔は実験を やっていて、Journal of physiology等に論文を出していました。是非、皆さんに も良いモデルを作って、Journal of neuroscienceやCerebral Cortex等の、 Neurosicentist全体が目を通すような所へ論文を出して頂きたいと思います。その ためには、やはりphysiologyの事を色々と知っておいて欲しいと思いますので、今 日はかなりintroductoryだけれども、そこそこ突っ込んだ話をしていきたいと思い ます。いわば、現場の話です。 タイトルは「1次視覚野の特徴抽出性の形成メカニズムとニューロン活動の統合」 です。まず、ここに着いてから配ったテキストの3ページの上から4行目の、「皮質 内の半壊性興奮経路による方位チューニングの増強メカニズム」の「半壊性」とい うのは、「反回性(recurrent)」の誤りです。 \section{1. 視覚系皮質の解剖学的構造} これは、日本ザルの脳を右半球の横から見たものです。左が後ろ、右が前です。 月状溝と下後頭溝に挟まれたのっぺりとした領域、これが一次視覚野(V1)です。 月状溝の後壁の所に視覚系の皮質がたくさんあります。さらにその前に位置してい るSTS上側頭溝の後壁の所から後方も視覚系皮質です。 これは知っている人も多いでしょうが、David Van Essenが1990年頃に描いた絵で す。サルの脳を横から見ており、この色の付いている所全部が視覚関連皮質で、 32に細分化されています。そのしわに沿って展開した一番後ろの紫の部分がV1です。 その前のちょっと色の薄い所がV2です。さらに、月状溝の前壁の部分がV3になりま す。そしてその前にV4があって、そしてこのSTSに沿ってSTSを展開すると、上の方 から7Aとか、あるいはMT、MST等があり、その後ろ側にIT野があるというような構 造になっています。 これは別のサルの脳を左後ろから見たものですが、これを見ると非常にV1は大きい 事が分かります。 これは反対側から見たものですが、実は今見てたこれ(前のスライド)は中心視に 近いところparafoveal vision を表現しているところです。特にこの月状溝と下後 頭溝の一番近付くのこのあたり、これが視野のちょうど中心(fovea)に対応しま す。そして、脳の真中に近付くほど視野の外側になります。それから、前に行くほ ど視野の下側になり、後ろに行くほど視野の上側になるという形になってます。 今度は内側から見た図ですが、この内側面はこのように鳥距溝、上溝枝、下溝枝と いうものがあって、そこに視野のかなり外側の部分が表現されています。小松先生 が盲点対応部位ということをお話されてますが、それに対応するのがこれの、ちょ うど奥の方です。 これは、ニッスル染色という染色方法で染色して切片を切って見たところで、ここ の部分が月状溝です。そしてこちらが前でこちらが後ろになります。それで、この 部分がV1で、ここからV2になるんですが、よく見てみると、ここにある太い濃淡の 線がここに来て突然消えてしまうのが分かります。実はこれはBaillargerの外線条 とか、Gennariの線条とか言いまして、4層に入ってくる有髄の求心性線維がごちゃっ と高密度に存在している場所です。そこは無染色でも見て取ることができ、縞模様 が見える事から有線野、あるいはstriate cortexという呼び方をします。ここにス ポットがありますが、これは記録した場所を色素でマーキングしたものです。ここ の薄いところは4B層、濃いところは4C層、その下が5層、そして6層となってます。 ですから、このニューロンは3層、すなわちちょうどV1とV2の境界にあったニュー ロンということになります。 \section{2. V1細胞の特徴抽出性メカニズム} これは1981年にノーベル賞をもらったHubel \& Wieselが実験しているところの写 真です。彼らが、視覚研究ばかりではなく大脳皮質研究に対して、機能構築、ある いは特徴抽出性、それから可塑性といった領域に対して及ぼした影響というのは、 計り知れないものがあります。 今彼らがここでやっているのは、麻酔したネコの眼前に置いたスクリーンに、プロ ジェクターでスリットを投影して、そして受容野の位置や受容野特性をキャラクタ ライズしているところです。こうやって位置を決めて、そしてorientationを決め ているところの写真です。 現場の雰囲気を味わって頂くのに、今日はこのデモ用のソフトを持ってきました。 これはUC BerkeleyのOhzawaさんが教育用に作ったもので、ダウンロードして持っ て来ることができます。私は今日は演習はやりませんが、後ほど皆さん自身で、こ のソフトを使って演習問題としてやってみてください。 今、ここに箱があって、ここに棒があります。この箱から千点棒を取ってきます。 実は今、この目の前にスクリーンがあって、麻酔されたネコがこのスクリーンを見 ています。このネコは筋弛緩剤を注射されて、眼球の運動を止められています。ま た、電解質やグルコース、さらに麻酔剤の入った輸液を持続注入され、心拍数は大 体240(beats/min)位、直腸温は38.5度から39度位、呼気中の二酸化炭素は4〜4.5パー セント位に保たれています。 今、V1に電極を刺してニューロン活動を記録しています。何か記録されたならば、 次に受容野の位置を決めてみようということで、まずorientationのselectivityを、 (カリカリカリ)、今のカリカリカリという音がニューロン活動です。縦の線に対 して応答しています。 こちら向きにはあまり出ないですね。しかしこちら向きには割と良く出る。だから この辺が何か怪しい。今度は別のorientationでやってみましょう。斜め、これは 出ない。それから水平の線もやってみましょう。これも駄目ですね。では、逆の斜 めをやってみましょう。これも駄目なんですね。どうもやはりこっちが良いようで す。と言う事で、orientation preferenceは縦ということになります。 今は手でがちゃがちゃ動かしていたのですが、今度は滑らかな動きでやってみます、 (この辺からかな)、良く反応しますね。次に反対側に持ってきて、こっちは出な いですね。という事で、このニューロンにはdirection selectivityがあります。 では、barのcontrastのpolarityを変えてやってみましょう。今度はdark barにし てみると、多少スパイクが出ます。やはりbright barの方が良いですね。ではこれ でdirection selectivityは確定です。 場所だけ正確に決めておきましょう。上はまず良いですね。下はこの辺です。右の エッジは、何かこの辺ですね。そして左は大体この辺です。 そうしておいて今度は空間周波数を変えて、gratingでやってみます。最も空間周 波数の低いものから始めて、こっちはnon preferred directionですね。次に、空 間周波数を少し上げてみます。右上に出ているのが反応のcurveになります。あん まり良くないですね。もっと上げてみると、結構高いのに良く反応します。空間周 波数は比較的高いものが良さうそです。 最後にOhzawaさんらがやっているreverse correlationで、この時間ドメインを含 めた受容野をマッピングしてみましょう。そうすると、これは実際実験をやる時は、 大体20Hzから30Hz位のスピードでdark barあるいはbright barを出して、それによっ て誘発されたスパイクに対して、時間的に何十ミリ秒あるいは百数十ミリ秒遡った スパイクとのcorrelationを計算して、bright barとdark barとがどういうタイミ ングで誘発されたかを求めます。今、左上に出ているのは受容野なのですが、実際 の実験では、これを20回も30回も繰り返して非常に精密なマップを作ります。この 図の縦軸はXで空間、横軸は時間軸です。このXTの受容野(時間ドメイン受容野) は、赤がdarkで反応した部分、緑がbrightで反応した部分です。つまり、dark、 bright、dark、brightとなっているんですね。そして、それが時間とともに斜めの 受容野構造になっています。このような受容野を持つ場合には、これに合うように gratingが動けば、onとoffの周期が常にこれに合って、連続的に受容野を刺激する 事になって非常に良く反応が出ます。けれども、これを逆向きに動かすという事は、 こういうふうに動かすという事だから、常にdarkとbrightのregionに合わない gratingによって刺激される事になるので、反応が出ない。このようにして direction selectivityが作られるというわけです。 このデモソフトには3種類のニューロンのデータが入っているのですが、これは実 際にOhzawaさんたちが記録したニューロンのデータ(時空間データ)がそのまま入っ ています。これは生のデータですから、受容野の位置がきっちり決まって、それか ら、空間周波数、すなわちreverse correlationに用いたbarの幅がきちんと合わさ れれば、かなりきれいなマップが出てきます。何か質問はありませんか? (質問者)XとTのグラフは、ある点T=0というところで、例えば白いbarが来て、そ の何ミリ秒後かにその場所に黒いbarが来たらどれくらい反応するかというように 示されているのですか? (佐藤先生)いや、スパイクが発生した時間から何ミリ秒遡った所に何が出てたか、 ということです。 (質問者)バーが動いているというのは必要なんですか。ニューロンは、動いてい るものに反応するんですか? (佐藤先生)えーと、それは1本で出した時ですか? (質問者)どちらも今は動いてましたよね? (佐藤先生)reverse correlationの時にはstationaryなbarが、例えば20ミリ秒と か、あるいは40ミリ秒とかの時間幅で出ていて、パッと出て決まります。ですから、 動いているわけではないのです。 (補足:大抵のV1ニューロンは静止刺激よりも動いている刺激に対して良く反応し ます。コントラストが変化する事が良い刺激になります) これは、Hubel \& Wieselのorientation selectivityのモデルです。興奮性入力の 収束パターンでorientation tuning、と言うかselectivityが出来るということで す。simple cellに対して、4つの外側膝状体のニューロンがあり、そのそれぞれが on center - off surroundの受容野を持っています。そうすると、それらがある傾 きを形成するようにalignしていれば、このような斜めの刺激が入ってきた時には これがfullにdriveされて、さらにV1の細胞をdriveするけれども、合わない傾きの 刺激ではdriveできません。 このような特徴抽出性の入力メカニズムに関するモデルは幾つかあります。この図 はスパイクの応答ですが、ある所にpeakを持ったtuningができる背景には、EPSPと IPSPがどのように入ってきているかという事が重要です。 一つは、EPSPが広くtuningしていて、それに対してIPSPが(下向きがIPSPのtuning です)peakから離れた所には抑制をかけ、ピークの所には抑制がかからないという 可能性です。これはcross-orientation inhibitionの考え方です。 そうではなくて、EPSP、IPSPともにoptimalな所にtuningしているという考え方も あります。これは、ある場所のニューロンを考えた時に、同じ場所に興奮性入力も 抑制性入力も入ってきているという事です。すなわち、興奮性入力をdriveしてい るものと抑制性入力をdriveしているものは同じだという事です。この考え方は、 脳の設計としては非常に無理がないものです。 もう一つの考え方は、EPSPはoptimalにtuningしているが、他方、IPSPはEPSPと同 じ所にpeakを持つのだけれども、それよりももっと広いtuningをしているというも のです。 cross-orientation inhibitionの考え方を非常に強く印象づけたのは、Adam Sillitoという人の実験です。どのような実験かというと、ネコの17野のcomplex cellを記録しています。この細胞は、ある最適な傾きの刺激に対しては反応します が、これに直交するものには反応しません。 その細胞の活動を記録しながら、bicucullineというGABA(脳の抑制性伝達物質の 中で一番majorなアミノ酸)受容体の拮抗薬を、記録電極の横に張り付けたピペッ トからイオン泳動的に流してやります。そうすると、細胞の周囲にbicucullineが 拡散して、GABAの受容体がブロックされます。この操作は、抑制性神経伝達のみを ブロックしている事になります。すると、適当方位に対する反応も、不適当方位に 対する反応も増えたというのです。そもそも何も出ていなかったのに、このような 反応が出るという事は、これは都合の悪い刺激に対する反応をGABA抑制が抑えてい ると解釈できます。すなわち、先ほどのcross-orientation inhibitionの考え方を かなり強く印象づけたものです。しかし、細胞内記録実験の結果は cross-orientation inhibition説を否定しました。 (質問者)今の横軸は時間ですか? (佐藤先生)いや、orientation(刺激の傾き)です。 これは、ネコの17野のニューロンを細胞内記録して、刺激に対する膜電位応答を調 べたものです。これは最適な刺激を用いて刺激しているのですが、そうしながら膜 電位応答を記録して、刺激のtriggerのtimingに合わせて加算平均をします。横に 書いてある数字は、その時に細胞内に注入していた電流値です。プラスの電流によっ て細胞膜を脱分極させると、細胞膜はEPSPの平衡電位に近付くため、EPSPは見えな くなります。したがって、この図で見えているのはIPSPだけという事になります。 この図に棘々が出ているのは、スパイクを平均加算した時に小さくなったものが出 ているだけですので、気にしないで下さい。それからマイナスの電流を入れてやっ て、膜電位を今度はマイナス側に振ってみます。そうすると今度は、IPSPが平衡電 位に近付くため、IPSPが消えます。 結局、このような方法でEPSPとIPSPを各々isolateして見る事ができるわけです。 そうするとこの最適刺激は、非常にはっきりとしたEPSPとIPSPの両方を誘発してい るという事が分かります。 (質問者)これは、in vivoでintraを測りながら、刺激を与えているんですか? (佐藤先生)ええ、刺激は光刺激のbar刺激を動かして見せていて、その刺激が受 容野を通過している時に誘発された興奮性膜電位応答と、抑制性の膜電位応答を見 ています。 (質問者)という事は、興奮性と抑制性両方の電位が出ている、という事ですか? (佐藤先生)はい、そうです。 これは、ちょっとスピードを変えたのですが、最適刺激を出した時の過分極性応答 (IPSP)です。非常にはっきりした大きなものです。それぞれ、averageとsingle sweepの記録です。 これは、最適刺激と直交する傾きの刺激を出したところです。非常に小さいIPSPし か出ないというわけです。結局は、最適刺激は最大のEPSPとIPSPのどちらも誘発す るという事で、興奮性も抑制性も最適のorientationにtuningしているという結果 です。今の考え方は、これ、もしくはこれ、これかなりbloadだけれどもこれだろ うという事になるわけです。 (質問者)中間的な45度くらいでは、何か応答はないのでしょうか? (佐藤先生)中間的なorientationで測ると、中間的なEPSPとIPSPが誘発されます。 ただし、非常にtuningがsharpなニューロンでは、45度も離れてしまうとほとんど 何も出ない、というものもあります。しかし、ネコは、サルよりも比較的 orientation selectivityが甘いので、45度でも何がしかの大きさの興奮性応答や 抑制性応答は観察されます。 (質問者)その図のCにあるように、興奮性応答はないけれども抑制性応答が出る という事はありますか? (佐藤先生)興奮なしで抑制が観察される、というのは見た事がないですね。 (質問者)では、Cではなくて、Bだということでしょうか? (佐藤先生)その方が合いそうなんですが、ただしin vivoの細胞内記録というの は結構難しくて、世界中で記録されたデータは数としてはさほど多くはありません。 ですから、BらしいけれどもCもまだ否定はできないというのが現状です。ただし、 興奮性入力が全然無いのに抑制性応答があからさまに観察される事はないので、や はりBの方が良いと思います。 ただ、その時にcross-orientation inhibitionを主張する人の中で、特に頑固な人 は、「そうではなくて、実は見かけ上はないように見えるけれども、shunting inhibitionがcross-orientation inhibitionに効いているんだ」と主張します。で は、shunting inhibitionについて少し説明します。樹状突起には興奮性シナプス あるいは抑制性シナプスが付きますが、そのシナプスが付く場所にはspine(棘突 起)という構造があります。それらは樹状突起からキノコのように沢山生えていて、 その棘突起に興奮性シナプスが付きます。そして、ちょうどspineがdendriteに付 いている根っこの所が急激に細くなっています。細くなるということは、この spineにおける膜抵抗が非常に大きくなるという事です。したがって、電流が流れ にくくなる。さらにこのspineの部分にshunting synapseという抑制性シナプスが 付いていて、抑制性のconductanceをバコーンと上げてやると、結果として電流は 皆そこでスコーンと抜けてしまいます。このようなメカニズムが働いて、興奮性電 位が皆落とされてしまうというのです。このような電流の変化は、細胞体には全然 伝わりませんから、このようなshunting synapseがあるのかどうかという事は、通 常の細胞内記録をしていても測れないだろうというわけです。 このshunting synapseの考え方は、特に理論家の人達にとっては非常に都合が良い 事だったようです。それは、spine1個1個を独立の計算の場とする事ができるため に、非常にnonlinearな計算が樹状突起のtreeの中で行なえるからです。このよう な生理学的事実は、理論家の人達は是非欲しいということでしたが、問題は、解剖 学者でこういうふうなspineのneckに付いている抑制性シナプスを見た人がいない という事でした。 そこで、David Fersterは、in vivoのwhole-cell recordingをやって、shunting IPSPを記録することで、shunting conductanceを調べようとしました。普通の sharp recordでは、細胞内に電極を刺すために、どうしても電極と細胞とのsealが 甘くて電流のleakが起こります。したがって、shunting IPSPを計測する事はでき ません。しかし、whole-cell recordingでは、細胞膜を破って非常にtightで、 $\mbox{G}~\Omega$(ギガ・オーム)というsealを作ってやることで、細胞上に流 れる電流を全て記録に反映させてやろういう方法です。細かい話なのでこういうも のだと思って聞いて欲しいのですが、これが通常のcurrent clamp法で膜電位を記 録したものです。そうすると、適刺激に対してこのような傾きの刺激を、ある方向 に、あるいはそれとは逆向きに動かします。これはマイナスがoffでプラスがonの 受容野のsubregionですが、off、on、off、onというように、offの反応とonの反応 のtimingが同調すると、非常に強い興奮が起こります。したがって、そのtimingに 合わせて非常に強い脱分極性の応答が観察されます。逆向きに動かすと、今度はこ このoff、onというのが、それに合わせて一山の大きな脱分極が出てきます。しか し、受容野の適当方位に対して直交する傾きの刺激を出してやりますと、今度は膜 電位応答は全然出ません。少し脱分極がありますが、非常に小さいものです。 (質問者)これは1個のニューロンの応答ですか? (佐藤先生)はい、1個のニューロンです。 (質問者)こういうふうに1、2、3、4、プラス、マイナスというのは? (佐藤先生)単純型受容野というのは、offの受容野(光が消えた時に反応する) と、onという受容野(光が灯いた時に反応する)との場所が分かれているんですね。 このsimple cellは、上の方からoff、on、off、onという4つのsub regionが並んで いる受容野構造を持っています。図の下のこれは、この細胞に入力している外側膝 状体のニューロンに対する電気刺激によって誘発された、この細胞の電位応答なん ですね。その大きさをtest刺激として測っておいて、ある決まったfrequencyで刺 激をポンポンポンと入れて、その際の膜電位応答を調べます。すると、もしニュー ロンの膜抵抗が一定であれば、それは決まった大きさの入力として入ってくるんで すね。ところが、もし刺激が入ってきた時にshunting conductanceの増大により膜 抵抗が下がれば、この反応はずっと小さくなるはずだ、というふうに見て下さい。 そうすると、ここでは何の変化もないわけですね。だけど、適当方位で刺激した時 には、非常にはっきりとした膜抵抗(入力抵抗)の減少が見られます。これは、興 奮性神経伝達に(あるいは抑制性でも良いのですが)生じるナトリウムとかカルシ ウムとかカリウムといった興奮性神経伝達の増大か、あるいは膜電位依存的に生じ ているconductanceの増大によるものだというわけです。 結局、彼らがいくつかニューロンを記録して見た中では、やはり最適方位が conductanceの増大を引き起こしており、しかもnon preferredのorientationが shunting conductanceと見られるconductanceを引き起こした例というのは無かっ た事から考えて、shunting IPSPというものは無いと結論されます。したがって、 少なくとも皮質の抑制というのは、shunting抑制ではなくて興奮とlinearに加算さ れるhyperpolarizing inhibitionであると結論付けたわけです。 \section{3. V1における階層性と特徴抽出性} 今のところまでを理解してもらったところで、私がしばらく前にやっていた実験を 見て頂きます。 麻酔下のサルでの実験です。皆さんは、細胞内記録をやればいいではないかと言う かも知れませんが、細胞内記録というのは技術的に大変で、1頭で1個とか2個のニュー ロンしか記録できません。せいぜい、1頭で1個とれれば良い方です。それではあま りにも効率が悪いので、麻酔下のサルから通常の方法でニューロン活動を記録し、 bicucullineによってGABA抑制をブロックするという実験を行いました。 これはサルの3層のニューロンからの活動記録で、orientation tuningのhistgram と、tuning curveを示したものです。上に示したような傾きのorientationの刺激 を出していって、誘発されるスパイク応答を記録します。さらに、optimalな orientationの刺激を出しておいて、bicucullineを流してGABA抑制をブロックして やります。そうすると、このように反応がorientationの刺激でも観察されるよう になります。tuning curve中の白丸と点線で示した部分が脱抑制中の反応ですが、 抑制前に比べてこのように全体的にガバッと上がります。ただし、optimalの部分 での増大が一番大きく、non-optimalの所が一番小さくなっています。 サルの皮質内における情報の流れですが、外側膝状体からの入力は4c層に与えられ ます(parvo cellular streamとmagno cellular streamというparallelな系がある のですが、この図はごっちゃに描いてます)。これがfirst stageで、それから magnoの情報というのは4b層に行き、magno、parvoともに2-3層へ上がって、 interblobという所へ行きます。そしてblob(ミトコンドリアの電子伝達系の酵素 であるチトクロム酸化酵素を、酵素組織化学的に染色すると茶色く染まる構造を blobと呼びます)とそのinterblobとが2-3層において区別されるわけです。さらに、 その次にどうするかというと、皮質の中では良く出てくる水平結合によって、2-3 層内を主に横方向に拡散します。それから今度は2-3層から5層、5層から6層、そし て皮質内で今度は6層からまた4層に対してもう一度帰ってきます。さっきの話にも ありましたが、6層からは外側膝状体に対してかなりfocusの合ったfeedbackがあり ます。focusが合っているという事は、外側膝状体から上がっていくtargetのV1の 受容野と、その細胞が外側膝状体に戻しているfeedbackを受ける細胞の受容野とい うのが、かなり一致しているという事です。4bあるいは2-3層からは、視覚前野に 対して出力があります。何でこんなものを出したかと言うと、結局、V1の中でいく つかのstageがあって、そのstageを経るごとにorientationなどのtuningと言うの はだんだんdevelopしていく、変化していくという事です。 これが2-3層、4a層、4b層、6層と言う4つの層で、orientation selectiveな細胞の tuningのpropertyと、それからビククリンをかけてGABA抑制を取り除いてしまった 時のtuningです。それは興奮性入力のtuningを反映したものと考えて良いと思われ ますが、このように2-3層ではoptimalな所にpeakを持っていて、180度逆の方向に も多少のピークが出る、といった反応が出ます。脱抑制してやると、合成入力の tuningはやはりbimodalなtuningになっています。4aも同じようなものです。それ から4b層は、orientation selectiveであるとともに180度離れた所、つまり逆方向 の動きに対しては反応が出ないので、direction selectivityもはっきりしていま す。そこで、これを脱抑制してやりますとoptimalな反応は出るけれども、逆向き の反応もそこそこ出るようになります。だから、4b層に対しての興奮性入力はある のだけれども、抑制性入力が閾値をsetするような働き方をするために、その興奮 性応答はほとんど観察されない、というわけです。 これは6層です。6層まで来ると、もう実際のスパイク応答のtuningと、興奮性入力 のtuningというのはおそらく同じだと思います。すなわち、脱抑制しても tuningcurveの格好自体は全然変わらないというわけです。 V1で記録した30個くらいの細胞すべてをpoolして、興奮性入力のtuningと抑制性入 力のtuningを考えてみます。excitationと書いた実線の方は、実は脱抑制中の反応 のaverageです。それからinhibitionというのは、脱抑制中の反応からcontrolの反 応を引いたもので、それを抑制が抑えていた分とみなして、抑制のtuningとしまし た。そうすると、これはoptimalな所にpeakがあるのですが、そのoptimalな所に関 しては興奮性応答のrangeが非常に大きくなっています。それに対して、抑制の方 は小さくなっています。すなわち、このresponseをspareするような形でその周囲 の反応を落している、というわけです。 次にdirection selectivityですが、これはMT野に直接出力する4b層ですけれども、 ここでは非常にdirection selectiveな細胞が多く観察されます。この細胞は、上 向きに動かした時には良く応答して反対向きにはほとんどスパイクを出さないので すが、ビククリンをかけてやると、こういうふうに反対向きの刺激に対しても反応 が出てくるようになります。さらにかなり大量のビククリンをかけてやりますと、 見かけ上ほぼ同じ位の反応、すなわちbidirectionalな反応になります。実際にこ のスパイク数をカウントしてみると、2:1位になります。 Aが今の細胞のデータなのですが、この両方向の反応について、preferred directionに対するスパイク数と、preferred directionの逆方向に対するスパイク 数をプロットしてやります。この白丸が、ビククリンをさまざまの投与電流量(濃 度)で投与した時、すなわち、さまざまな脱抑制レベルで記録した時のスパイ ク数なんですが、非常にlinearな関係が出てきます。すなわち、このpreferred directionについてのスパイク数の伸びと、non-preferred directionについてのス パイク数の伸びとは、一定の比率を持っています。 この実験から、そもそもpreferred directionとnon preferred directionに対する EPSPがあって、機能的には抑制が様々なレベルでthresholdをsetする事によって、 様々なdirection selectivityが出てくるという考え方ができます。 (補足:神経生理学ではdirection selectivityを指してdirectionalityという語 が一般的に用いられる) (質問者)層毎の違いが見られるというのは非常に興味深いのですが、その時ビク クリンに抑えられているのは、その細胞の周りなのか、それとも全層に広がるくら いに抑えられているのですか?つまり、ビククリンがどれくらいまで広がっている かということですが。 (佐藤先生)それは非常に重要な問題で、それに関して正確なestimationというの はビククリンに関しては分かりません。ただ私達の一応のestimationとしては、細 胞を中心として200ミクロン程度と考えています。uptake mechanismのない他の物 質にRIを付けて調べてみると、大体200ミクロン位だったという報告からです。基 本的には、細胞に与えられている抑制性シナプスというのは、細胞体であるとか、 dendriteのかなり細胞体に近い所に付いています。それに対して、興奮性シナプス は非常に遠い所にも付きます。そうすると、細胞を中心として200ミクロン程度だっ たらほとんどの抑制はブロックできるだろうと言うわけです。それともう一つは、 あまりに強く強烈に流してしまうと、ぶわっと自発発火のレベルが上がってきます。 それから当然、近傍のニューロンに対しても脱抑制が及ぶんですね。そうすると、 実は脱抑制をやったつもりが脱抑制だけではなくて、excitationをぶわっと上げて しまっている事になります。この実験結果もそれを含んでいるだろうとは思います が、少なくともそのback groundの発火レベルが、あまり上がらない範囲の投与量 でやりました。 (質問者)cortexの厚さが1ミリくらいですか? (佐藤先生)サルの場合は2ミリ近くあります。一応そのlayerを越えないようにす るとか、そういうcontrolはちょっとできません。ですから、確かにtechnicalな限 界というのはあります。 (質問者)かなりspecificになっているということですか? (佐藤先生)実は細胞の中からblockする方法とかいろいろあって、いろんな事を やっている人がいます。実はその話も面白いのですが、それをやると時間がかかっ てしまうので、別の機会にさせて下さい。 \section{4. V1におけるblobの色刺激に対する応答特性} 今度は色の話です。 これはさっきちょっとお話したblobですね。あまりはっきり見えないかも知れませ んが、茶色の斑点状のものが見えると思います。これは、サルの2-3層の、脳の表 面に平行な切片を作って、そしてチトクロム染色をしたものです。そうするとこう いうふうにblobが出てきます。この白い丸は血管です。血管というのは脳の中心か ら表面の方に向かって垂直(radial)に走っているので、表面に平行な切片にする と、まん丸い穴がポツポツと空いています。 blobの細胞を記録してビククリンをかけるのですが、色刺激をポンと受容野に出し ます。そうすると、これは赤で非常に持続的な反応が出ています。そして黄色では 全然出なくて、緑、青ではむしろ自発放電レベルの減少が見られています。ですか ら抑制(興奮の減少と考えてもいいかも知れません)が生じていると考えられま す。だけど今度はspotが消えるとどうなるかというと、青あるいは緑に対してoff 反応が生じます。しかし、赤ではsuppressionのような状態になっています。です からこの細胞の受容野はred on - blue offという事になります。 従来、red on - green off、あるいはgreen on - red offというのは知られていて、 red on - blue offというのは無いとされてきたのですが、実は昔の仕事はみんな モノクロのfilterでやって単波長の刺激を使っていたのです。私達はコンピュータ のディスプレイでやっていますので、greenのemissionというのは、実はスペクト ルが広いためにred coneにも吸収されるんです。だから、redのメカニズムとgreen のメカニズムが拮抗した所では反応が出ない。だけどblueのemissionは、red cone の吸光スペクトルとoverlapせず、greenとは重なり合うために、greenの反応が出 るというわけです。 これにbicucullineをかけてやると、どの色に対してもon反応が出るし、どの色に 対してもoff反応が出る、という事になるわけです。これが単に明るさのcontrast に対する反応でないという事は、whiteでやった時の反応とは少なくとも全然違う という事から証明されます。ですから、やはりここで出ているのは、色の convergenceがV1のblobのニューロンにおいてあるという事だと考えられます。 これは別の細胞ですけれども、やはり同じような細胞でred on-blue offというよ うに反応します。これにビククリンをかけてやると、やはりどの色に対してもon反 応とoff反応が出ます。ただし、ここで出てきている反応はかなりphasicなものに なっています。ただしon反応についてみるならば、長波長の刺激ほどより大きな興 奮を誘発しています。 それに対してoff反応は、短波長光ほど反応が大きいという傾向が見られます。と いう事は、色のconvergenceがあるとは言っても、やはりこの細胞のon反応では、 長波長にpeakを持つような興奮、そしてoff反応では短波長にpeakを持つような興 奮であると考えられます。ただし、この実験では、かなりbroadなスペクトルの入 力になっている可能性も考えられます。 従来の考え方では、サルでは色のpathwayというのはかなり初期の、網膜の段階か らparallelにsegregateしてくるということでした。そして小松先生の話では、色 の加算性は、cortexになって出てくるということになっています。 私達の結果ではV1のblobのlevelで、1個のニューロンに対してかなり広い波長域の 入力がconvergeしていることになります。すなわち、on反応でもoff反応について も、convergeしているという事です。そしておそらく、ネットワークにおいて興奮 と抑制の働くバランスというのは常に一定ではなくて、入力状況に応じてバランス が変化し、そのバランスに応じて色のtuningも変化しているのではないか、という ように考えています。 これはSompolinskyらによるまとめです。orientationに限らず他の特徴抽出性に関 してもおそらく同じ事が言えると思うのですが、EPSPもIPSPもそれぞれoptimalに tuningしています。ただしEPSPと言うのは、afferentによってもたらされる最初の EPSPと、cortexの中でのrecurrentなexcitationによって生じるEPSPとのnetのEPSP を指します。EPSPとIPSPとがinteractionし、線形加算された結果、optimalかつ sharpにtuningされた反応が出てくるというわけです。これが現在、広く受け入れ られている興奮と抑制との関係でしょう。cortexのrecurrent excitationの話は、 みんなそれはそうだろうと思っていたのだけれども、それを非常にはっきり証明し たのはRingachやShapleyです。 先ほどのようなreverse correlation法を使って、V1のニューロンのorientation tuningが時間とともに変化する性質があるのですが、それは本当は初期入力ではな くて、皮質の中でrecurrentなconnectionにより生じた入力によって、tuningが sharpになるメカニズムが効いてるんだ、という話が元となっています。 これは見た事があるかと思いますが、今の所からやっぱり一歩進んだ特徴抽出性も 考えてみたいと言う話をします。この窓枠のような線があって、この線はこの窓枠 を構成している線だとはっきり言えるのですが、こっちになってしまうと、もう stripe patternを構成する線として見えてしまって、それはこの窓枠の線の一本と しては見えないんですね。勝手にそうなってしまうことから、channelとしてそう なっているのだろうと考えられます。それも形のchannelと、それから表面と言う かtexture patternに対するchannelと言うのがどこかのlevelであるだろう、と言 う事なんです。 これはBlasdelのoptical recordingの仕事ですが、サルでoptical recordingをやっ てorientation mapを作っています。上のmapと下のmapは同じものなんですが、違 うのは白い線と黒い線が引いてあることです。ocular dominance column(眼優位 性カラム)と言うのがありますが、これは右目の入力を受けているか、左目の入力 を受けているかの皮質上の空間パターンのことです。そしてそのocular dominance columnの中央部分にはblobがあるのですが、そのblobをつないだのがこの白い線で す。この各色が各orientationに対応しているのですけれども、距離の変化ととも に順々に連続的にorientationが変化していることがわかります。これは、その辺 にある細胞と言うのは直径200-300ミクロンの樹状突起という、ニューロンにとっ てのアンテナを張りますから、比較的差のないorientationの入力しか受けないわ けです。ですから、それは特定の傾き、すなわち物の形ですね、境界線を検出する ことに有利に働きます。 それに対して、ocular dominance columnの境界線を引っ張ったのが、この黒い線 (B)です。これをやってみるとsingularityがいっぱい出てきます。ある点を中心 にして、180度の方位ドメインがぐるっと風車状に並んでしまいます。そうすると、 こういう所にある細胞と言うのは、直径200-300ミクロンの樹状突起を張ったら、 様々なorientationの入力を受けるため、決して単一のorientationに反応するよう にはなりません。ですから、ある場所にある細胞は、他の場所の細胞とは別の機能 があるだろうと考えられるわけですね。つまり、ある場所の細胞はtextureとか色 とかsurfaceの情報処理をしていて、別の場所の細胞は形ではなくて、surfaceみた いな情報処理をやっているのではないかと言うふうに考えられます。 ただしこの機能に関しては、まだあまり証拠がありませんし、研究も進んでいませ ん。つい最近Gilbertが論文を出していますが、まだどう評価して言いのか分から ないと言った状況です。ですから、モデルとしてもorientationあるいはocular dominance columnと言うのを、こういう形で入れたものは結構あるのですが、pin wheel、あるいはlinear zoneとpin wheelを入れて機能を考えたモデルは、見たこ とがありません。もう一度説明すると、こんなふうにlinear zoneと言うのはここ の話で、pin wheelがある所と言うのはここだ、と言う事ですね。 \section{5. V1細胞の特徴抽出性に対するcontextual modulation} contextual modulationの話に移ります。 今までの話はV1の細胞の受容野の中の話だったのですが、ここからは受容野とその 周囲との関係についてです。Hubel \& Wieselのstoryというのは、基本的には受容 野の中の話で、それに決着を付けるために40年くらい経ったわけです。もちろん受 容野とその周囲との関係について考えてきた人達がいないわけではなかったのです が、ようやく受容野の中の話に大体かたがついたので、さてそれでは受容野の周囲 との関係について調べようということになったのです。それからもう一つは、コン ピュータ・グラフィクスの技術が進み、様々な刺激が容易に作れるようになったの で、受容野と周囲との関係について調べるための刺激実験がやりやすくなったこと が挙げられます。ここに来て、ようやく心理学の話にまで繋がるようになったわけ です。 この図は、一様なorientationの中に一個違ったorientationを持つものがある、あ るいは違うorientationで作った四角が存在したりするものです。これはすぐに判 るわけです。これがもし同じorientationであったならば、この線分を意識するこ とはないでしょう。結局、ここに違うものがあるという、情報処理の経済性という か効率化の問題、あるいはポップアウト、あるいは図地分化とも言われますが、こ れのcorrelateとなるような現象がV1でも見られます。 そのような現象が見られる、ということよりは、むしろそのような現象の持つ性質 は、脳がどのようにに構造化されているのかを理解する上で、非常に良い材料にな ります。そういう理由から、私たちはここの所を調べています。 これは1965年のHubel \& Wieselの論文の図ですが、これには受容野の外側に出し た刺激が受容野の中の刺激に対するス応をModulateするということが出ています。 これはネコの19野の細胞に対する実験で、点線が受容野です。このようにoptimal なorientationの刺激を動かしてやると、スパイクがポポポポポと出るわけです。 しかし、同じことをしながら外側に別のバーを出してやると、反応は見事に止まっ てしまう。しかし、その距離を離していくと、また反応が出てきます。彼らは、こ れを19野の細胞のend stop inhibition、すなわち長さに対するtuningということ で説明していて、19野にはそういう細胞がいっぱいあることを指摘しました。こう いうのをきちんと図にして出しているところは、さすがだと思います。彼らが、結 局一番最初にこういうことを報告したことになるわけです。 私たちの実験では、麻酔非動化したネコの眼前にモニタを置いて、受容野に gratingの刺激を出してそれに対する反応を記録しています。さらに、周囲に様々 なパラメータのgratingを提示して、それによるmodulationを調べました。 これは記録例ですけれども、平均的な明るさのgratingの中にcircular patchを出 して、optimalなorientationを見せます。刺激は実際は動かすわけですが、そうす ると刺激の明暗の周期に応じてバッ、バッ、バッというふうに反応が出ます。しか しその周囲に、同じcontrastで、同じorientationの刺激を出してやると、反応は ぴたっと止まってしまうわけです。この実験だけでは、受容野のcenterの刺激と surroundの刺激との間にある、コントラストのhard edgeが無くなってしまい、一 様のパターンで受容野が刺激されたために反応が消失したという可能性もあるので、 半周期ずらした刺激で実験したところ、やはりほとんど抑制される、つまり反応が 止まってしまうわけです。さらに、背景のorientationをだんだん変えていくとま た反応は戻ってきます。そして直交するCross orientationの背景では、ほとんど 抑制性のmodulationがかからなくなってしまいます。ですから、このmodulationに はorientationについても依存性があると言えます。 (質問者)その図の横軸は、時間ですか? (佐藤先生)post stimulus time histogramの横軸は時間です。刺激は、この辺り から動き出しています。この間は静止しています。 (質問者)一番上の場合、刺激が周期的に出てきているように見えますけれども。 (佐藤先生)はい、それはgratingがcicular patchの中で動いているのです。 (質問者)上に行ったり、下に行ったりしているということですか? (佐藤先生)いや、一方向ですけれども。 (質問者)位相に応じてでしょうか? (佐藤先生)はい、そうです。 (質問者)背景の方も動いているのですか? (佐藤先生)背景も動いています。この場合には同じ方向です。でも、逆方向に動 かした時に、同じように抑制が出るものもあるし、ちょっと抑制が弱くなるという ものもあります。その辺りはdirection selectivityとの関連もあります。この場 合には同じ方向に、あるいはこういうような場合は方向はもちろん違ってきます。 gratingのストライプと直交する方向にgratingは動いています。 背景刺激のorientationとその反応との関係ですが、180度のところがcenter刺激、 すなわち受容野刺激のoptimalなorientationです。背景を付けずに、この180度の center patchだけを出したのが、このグレーの反応レベルです。しかしsurroundの 刺激を付けてやると、反応の抑制が起こっています。特に、この180度、すなわち 同じorientationで同じ方向にsurroundの刺激を動かした時に非常に強く反応が抑 制されます。それから、orientationは一緒だけれども逆方向に動かしてやった時 、すなわち0度の所でも反応は完全に抑制されています。ただし、背景の orientationとのずれが大きくなっていくと、この抑制は弱まっていきます。この ように、背景刺激による修飾作用にはorientationに関する依存性があり、このよ うな修飾作用は、同じorientationにpreferenceを持つneuron domainを背景として いるのではないか、ということが示唆されるわけです。 (質問者)90度位の時というのは、gratingの周期や速度に依らない反応が出るの ですか?、180度の時はいろいろ変化させていますけど。 (佐藤先生)基本的には、周期あるいは速度を変えても、90度の所というのは修飾 作用が弱いんですね。むしろ、同じところの方が強いんです。そうではないニュー ロンもあるという、他の人の報告もあります。 私達の実験では、非常にhigh contrastの刺激を用いています。high contrastな刺 激を使うと、背景から受容野刺激に対する抑制作用が非常に顕著に現れます。実は、 contrastを変えることによって修飾作用が興奮性になったりするというのは、昨日 のSomersの論文の中にも出てきましたが、背景刺激のコントラストに応じて受容野 刺激に対する反応のcontrast-response curveのgainが変化するということで、こ れはかなり以前から知られています。 け黷ヌも、私達の実験ではcontrastをhigh contrastに固定してやって実験をして いるので、話が単純になっています。その場合には抑制性の修飾がメインで、しか も同じorientationの時に最も強い抑制性の効果が出ることが多いということです。 今度は、空間周波数についての関係を見ていきます。これは別の細胞ですが、この ようなorientationがoptimalで、空間周波数を様々に変えてやります。すると、 0.1、0.2、0.3Hz位の所で、非常にはっきりとした反応が出てきます。0.6Hz以上に なると、全然反応が出なくなります。このようなニューロンについて、受容野刺激 の空間周波数を0.2Hz、つまりoptimalに固定しておいて、surroundの空間周波数を 同じorientationに変えてやります。すると、このように0.1、0.15、0.2Hz、0.3Hz、 すなわちこの細胞にとって最適な刺激となるような空間周波数では、はっきりとし た抑制効果が出るのですが、この細胞がそもそも反応しないような、0.4とか0.6Hz 以上の刺激になると、抑制性の効果が出なくなってしまっています。ということで、 先ほど修飾作用はorientation domain間の神経結合が背景にあると言いましたが、 空間周波数に対する依存性もあります。要するに、刺激パラメータが似たようなも のがcenterとsurroundにある時に、ここでは強い抑制が出ています。だから、非常 に都合よく解釈すれば、そこが一様であれば出力を落とすというメカニズムが、方 位選択性あるいは空間周波数選択性などを各々共通とするような神経結合を前提と して存在しているのではないか、ということが言えます。 (質問者)空間周波数というのはどのように定義しているのですか? (佐藤先生)空間周波数は、視覚1度に1周期あれば1Hzとしています。 (質問者)(私は)ニューラル・ネットワークに余り詳しくないのですけれども、 そういう風な状況がどのように作られるかというのを考えてみると、長さや orientationなどいろいろなものに対する受容野があると思うのですけれども、そ の中で同じ周波数の同じ方向のものに対して同じlayer内で抑制が働くということ は、結局、はじめにある一定の周波数のある一定のorientationを流した時に、そ の時にのみ発達するもの同志が、Anti-Hebb則でお互いに抑制しあっていることに よって、そのような神経結合が形成されると考えて良いのでしょうか? (佐藤先生)ニューロンの活動相関を見ると、同じ特徴に対して選択性を持つもの 同士の結合が、興奮性であれ、抑制性であれ強いといえます。従って、基本的には、 共通の入力を受けて発達した局所神経回路は強い興奮性結合と抑制性結合の両者が 形成されており、それが入力状況に応じて異なる興奮と抑制のバランスの出力をす るようになっているのだと考えています。 昨晩、皆さんが読んだSomersの論文、これは必読文献にもなっていますが、あれで も前提としているのは、興奮性のネットワークと、あるいは抑制性のネットワーク と、これらを別々に分けることはできないけれども、興奮の動作特性と抑制の動作 特性とは違いがあります。入力(入力というのは刺激のintensityというか contrastと考えてもいいけれども)に対するactivityは、興奮性の方では閾値は低 いがgainが小さく、そしてある所まで行ったらsaturateするいう性質を持っていま す。それに対して抑制性の方は、閾値は高いのだけれどもgainが大きくて、 contrastが上がってもsaturateしない、すなわちcontrastの動きに対してかなり linearな応答を示します。 そうすると、低contrastの時には興奮がdominantな状態が出るけれども、high contrastになった時には興奮性の方がsaturateしてしまって抑制性の方はまだ働い ているような状態が出てきます。このような関係が、実は重要なのではないかと考 えているわけです。 ある興奮に対して、これを上回る抑制なんて確かに必要ないと言えばないのですが、 少なくとも必要な所もあるでしょう。つまり、contrastのrangeというか、強さに 依存して興奮と抑制とのバランスが変わってくる、ということが背景にあるという 事を言いたいわけです。今から幾つかの説明をしながら、そのあたりを考えたいと 思います。 一番目として、受容野刺激による反応修飾の特徴としては、刺激特異性があります。 これは特徴抽出性domain間の神経結合を介しているものではないかということです。 それから次に、広い範囲に分布するニューロン活動を反映しているものがあります。 これには水平結合など、lateral connectionを考えたい。これは、受容野刺激をど んどん大きくしていくと、反応としてはだんだん大きくなって行き、あるところで 最大の反応をした後、また反応は小さくなっていく。これは同じorientationの fieldが広がっていくので、抑制性のmodulationが生じてくるわけなのだけれども、 それがfullの効果をもつのには15度くらいまで広げてやらないといけません。そう すると、直径15度というと半径にしても7度くらいですから、ネコの皮質上の距離 にして単純にいうならば6〜7mmくらいです。したがって、非常に広い距離を巻き込 んで起こっている現象ではないかと考えられるわけです。 同じニューロンで、今度は全体を一様なgrating patternにして、ただしその受容 野のcenter patchの周囲にgrayのannulusを置き、そしてそのannulusの径をどんど ん大きくしていって、その受容野の周囲をmaskしてやります。 これは、どれだけの範囲をmaskしたら、この抑制が解除されるかという実験です。 そうすると1度幅くらいまでは全然抑制は消えないのですが、だんだん弱まっていっ て、7度くらいまで幅を広げてやった時に、完全ではないけれどもかなり抑制が取 れています。この実験からも、やはり半径にして7度くらいに相当する皮質の activityを巻き込んでいるのではないかと考えられます。 次に、背景がcross-orientationの時にはどうかというと、元々そういった抑制は 弱いのですが、1度まではやはり解除されていません。しかし1.5度で抑制が解除さ れ始め、2度では完全に解除されてしまいます。つまり、cross-orientaionの surroundは多少の抑制効果を持つものの、その抑制効果は空間的に限局して狭い範 囲で生じています。ですが、orientation preferenceの違いとの関係で、結合の広 さは異なりますが、直接的・間接的にlateral exciationあるいはlateral inhibitionをdriveするlateral connectionがあるのは確かです。ですから、その ようなlateral connectionが効いているのではないかという事です。 それから、contrastに対する依存性があります。これはさっきの話と関連するので すが、Blakemoreらの論文からの引用で、テキストにも掲載しています。これは contrast response functionなのですが、こういうふうにcenterのpatchを出した 時に、このcenterのpatchのcontrastをだんだん変化させていきます。そうした時 の反応はAのようなsigmoidのcurveになるわけですが、BあるいはCでは背景刺激を 付けており、Bはlow contrastの背景刺激で、Cはhigh contrastの刺激です。こち らは背景の刺激のcontrastを固定しています。そして同じようにこのcenter patch のcontrastのresponse functionを調べてみると、こういうふうになります。いず れにしても、low contrastの方では反応のfacilitationがあって、high contrast の方においては反応のsuppressionがあり、反応が弱くなっています。機能的には、 gain contrastを落として、広い範囲のcontrast域に同じような出力を出させると 言った機能がある。それは、説明が難しいのですが、興奮性細胞と抑制性細胞との バランスがあるのではないかということです。 結局、抑制性細胞と興奮性細胞とは、入力に対する応答性が違うということがあり ます。また、背景刺激によるmodulationは微妙なところがあって、これがlow contrastの時には概してfacilitatoryな効果を持ちますが、contrastが高くなって くると抑制が強くなってきて、外側からかかってくる興奮性の作用によって、逆に バランスが今度は抑制の方に傾いてしまって、わずかな抑制が生じてくる。だけど、 こちらの方では、low contrastの時には何かfacilitatoryな効果が強く出るけれど も、それがわずかでもcenterのcontrastを越えると、interactionの結果として、 強い抑制に転じてしまう。これは解釈が走りすぎているので、ウソだと思って聞い てもらっても良いです。 \section{6. V1細胞における発火特性のadaptationとその刺激特異性} 今度は、刺激特異的にadaptationを生じるという現象についての話です。これは少 し古いのですが1979年のMovshon \& Lennieの論文からの引用です。V1からニュー ロンを記録しておいて、contrastをだんだん上げていきます。そしてgratingを動 かして反応を記録するのですが、Aではだんだん反応が強くなっていきます。そし て、Bでは何をやったかというと、特定の空間周波数のorientationのgrating刺激 を視野の全面に出して、120秒間のadaptationをさせてやります。そうして、その 後で刺激を出してやると、こういうふうに反応が小さくなってしまう。閾値の増大 が起こり、しかもresponseも小さくなってしまうということで、これはadaptation が生じていると考えられます。しかもこのadaptationはorientationに特異的です。 adaptationが起きている時に何を考えれば良いかというと、例えば積極的に抑制が 働いている、あるいはカリウムのconductanceが増大している可能性もあるのです が、一番考えやすいのは、ネットワーク全体の興奮性が落ちているということです。 これはFersterの実験ですけれども、もう時間が押してきているので詳しい説明は しませんが、こういうふうにlow contrastな刺激によるadaptation、それからhigh contrastな刺激でadaptationさせた時の反応です。横軸は刺激のcontrastです。膜 電位応答でそのDC成分を調べてみると、high contrastで刺激した時には過分極が 起こっています。つまりDC-shiftが起こっている。ということは、やはり何がしか の全般的な興奮性入力がnetwork全体として落ちているということです。ただし、 このF1成分を見てみると、入力の周期に応じて変化する膜電位応答は大して違って いない。直接入ってくるその興奮性のdriveよりも、そのbaseのlevelで与えられて いる興奮が落ちているということです。 (質問者)それは実験後、元に戻るのでしょうか? (佐藤先生)元に戻ります。だから、記録する時には、刺激を走らせる直前に彼ら の場合は20秒ほどのadaptationをやってから刺激を動かし、また戻ってしまうから またadaptationさせて動かし、というふうです。 (質問者)では、すごく早い一過性のものというわけですね。 (佐藤先生)そうです。ここでも同じDC-shiftが起こってしまっている。で、それ を考えたときに、先ほどの論文ですが、これはネズミの3層の錐体細胞です。錐体 細胞に付いている興奮性シナプスと抑制性シナプスというのは、高頻度入力に対し て異なるdepressionを示します。そして、興奮性シナプスの方がdepressionを生じ やすい20Hzという刺激でもって、voltage clamp法でEPSCとIPSCというのを記録 して、そのEPSCとIPSCを重ね書きしています。これは分かり難いけれども、 こちらの減衰が抑制性シナプス電流、IPSCですね。それでEPSCの方はほとんど無い くらいに減衰してしまっている。これはたかだか1秒くらいの間にこうなってしま うので、非常に早く起こるadaptation、というかdepressionなわけです。それは刺 激の繰り返し頻度が高くなるほど乖離が明らかで、興奮性シナプスに強い depressionを生じている。ということは、強い入力が入ってきた時には非常に早い 時間で興奮性シナプスのdepressionが生じることを示唆するわけです。 これはあまりはっきりと見えないですけれども、ネコの2-3層の錐体細胞に標識を しています。これが他の領野へ出力する軸索です。途中から水平軸索側枝が枝分か れしてhorizontal connectionがずっと延びて行き、隣の細胞のdistal dendriteに 付いているという絵です。この水平結合には、実は2発刺激で、すなわちtrainで入 力が入ってきた時にdepressionを起こすという性質が顕著です。これはあるニュー ロンの記録例ですけれども、1個の錐体細胞を記録していて、近いところは100ミク ロン以内です、遠いところになると350ミクロン以上離れた所の、2つのhorizontal inputのsourceとなるsingle cellを掴まえて、そのsingle部分のhorizontal input を記録してやります。それを2発刺激した時に、1発目の反応はこんなに大きいので すが、2発目はほとんど見分けられないくらいに無くなってしまっています。 averageでも同様です。2発刺激の間隔は100msecです。これはpaired pulse depressionと言いますが、このように非常にdepressionを起こしやすいことがあげ られます。これは別の細胞ですけれども、やはり同じように明らかなdepressionが 生じています。short distanceでも、やはりdepressionは2発目に生じています。 これに対して、4層からの縦方向のsingle inputについて見てみると、今度は facilitationあるいはdepressionが起こったりしています。 \section{7. まとめ} これは今までのまとめですが、丸がそれぞれの細胞に対応しています。horizontal depressionについて言うと、2発刺激の時には、ほとんどの細胞で2発目のEPSPが小 さくなる。それに対して、縦方向のインタラクションはfacilitationを起こしたり、 depressionを起こしたり、どちらもある。つまりここで言いたいことは、 horizontal connectionの方はdepressionが起こりやすいということです。 それで何が言いたいかというと、こういうふうなafferentが入って来たとして、4 層の細胞があって、2-3層の錐体細胞があるとします。2-3層の錐体細胞は、共通の 刺激特徴にpreferenceを持つ細胞同士がlateral connectionでつながっています。 そのような状況で、このcenterとsurroundの領域の視野が刺激されたとすると、 centerだけでは広い範囲に強い興奮は生じなくて、lateral excitationも比較的 saturateしない状態であるわけです。だけど非常に広い範囲が刺激されると、広い 場に強い興奮が生じてしまって、どうもそれによってhorizontal connectionが互 いにrecurrentで興奮を強め合うと、すぐにdepressionにつながってしまう。しか も、horizontal部分のexcitationが入ってくることによって、縦方向の興奮性シナ プスもdepressionを起こしてしまう。私たちが観察したようなhigh contrastの刺 激をした時には、そういうことが非常に短時間に起こっているのではないか、とい うわけです。 すなわち、同じorientationにpreferenceを持つ機能domainに specificな depression、あるいはmodulationが生じている。全体のcontrastが低ければ、それ はfacilitatoryな効果をもつこともあるか烽オれない。ただ、昨日の話でしたでしょ うか、網膜レベルでもadaptationがあり、入力量をaveragingして、そこからの deviationを信号として同定したりするような性質がある。つまり、いろんな明る さのレベルにadaptationして、一番良い部分で刺激抽出のdynamic rangeを広げて やるというメカニズムが網膜レベルでもあるわけです。だけれども、それは皮質の レベルでも、このような機能domain間の神経結合を背景としたnetworkレベルでも、 似たようなことは考えられるのではないかという事です。これは、明るさだけでは なくて、一様なcontrast patternが存在している時にも同じようなadaptationのメ カニズムがあって、それと違うものがあるということを検出しやすくするのではな いか、ということが考えられます。patternに対するadaptationということです。 これはSomersのモデルですが、今までに判っている生理学的・解剖学的データを盛 り込んだものです。これは、localにも非常に上手く振る舞うし、今のような center-surroundの刺激を入れてやった時にもphysiologyのデータに合うような結 果を出します。だけど、afferentが入ってきて、それを受け取る1つの層しかない し、横方向の結合しか考えていません。ただし、そこに興奮と抑制の動作特性を盛 り込んでいます。さらに、興奮と抑制の結合比や、あるいはorientation domain間 の結合強度というのを取り入れています。しかし、先ほどの空間周波数domainとい う話は全然入っていないし、singularityなどといったものも入っていないですね。 ですから、さらにそういうものが入っていった時に何が出てくるのか非常に興味深 いです。確かな事は、このモデルは少なくとも我々が見つけてきたことを整理する のには非常に良いし、どれくらいのパラメータを入れたときに本当らしく振舞うか ということも参考になる。ですから、これはこれで、Hodgkin-Huxley型のモデルに adaptaionのcunductanceとか、after hyper conductanceとかを入れた簡単なもの を元に、非常にいろいろな条件やパラメータを盛り込んでいて、我々にとっては非 常にありがたいなと思うわけです。 ただ、これを皆さんが自分で全部勉強して、こういうふうなもの盛り込んでやろう とすると、とんでもなく大変なことになります。むしろ、生理屋、あるいは解剖学 者と組んで、チームを作ってやるというのが望ましい姿だと思うし、Somers達の所 でもNelsonを一番のleaderとして、チームを作ってやっているんですね。ですから、 このような機会が、日本の神経科学者のネットワークを作る場として大変良いと思 います。 以上です。 (質問者)似た者同志に抑制がありそうだとのことでしたが、層内での水平結合で やっているのか、それともあるいは、いったん上に行って戻って来るような、領野 を越えた形で抑制が起こっているのかといったことについて何かお考えはあります か? (佐藤先生)それは、geniculateを介したものではないだろうという話はあるんで すね。というのは、geniculateのニューロンではsaturationが生じないような contrastレベルでやっても、今見たような皮質レベルでのsaturationとか adaptationは生じるからです。これは少なくとも、まあgeniculateが非常にhigh contrastな部分に関与していないとうことは言えませんけれども、むしろ皮質内か 上位を介したものかもしれません。ただし、上位を介したメカニズムといっても、 top downのメカニズムはまた別にあるだろうと。で、私が今日紹介したのは全て麻 酔下の動物の結果です。ですから、そういう意味ではtop downというのは全く働か ないということではないですけれども、あまり効いていないだろうと思います。 それから今のSomers達のモデルを見ても、V1だけで作れるということですから、少 なくともV1でおそらく今のような性質を出すようなネットワークがあるだろうと。 ただし、もちろんそれだけではなくて、いろいろなレベルで同じようなことを実現 しているというのが脳の仕組みだろうと思いますので、top downな性質を使っても できるし、それは見方を変えればattentionという言い方をしたりするのだろうと 思います。 (質問者)似た者同志が抑制しあうという印象を受けたのですけれども、何が(具 体的には、orientation または周波数)似ているのでしょうか?それは両方とも同 じでないと抑制しないのか、もしくは片方だけでも抑制するのでしょうか? (佐藤先生)orientaionを90度変えてしまうと、周波数による抑制も出なくなって しまいます。ですから、orientationを揃えておいて空間周波数への依存性を見て やると、orientationの方が強くかつよりspecificになっています。 (質問者)周波数を変えておいて、orientationを変えた時にはどうですか?つま り、周波数でいうと全然抑制し合わないところで、orientationを変えたというこ とですが。 (佐藤先生)orientationががらっと違ってしまうと、空間周波数が違ってても揃っ てても、関係なくなります。 (質問者)水平結合でつながっているニューロン同志の反応特性というのは、どの ように違うのですか? (佐藤先生)共通したものが多いです。それに関して幾つか実験がありますけれど も、cross correlationの実験などで、かなり離れたところのニューロンを記録し ておいて、どういうふうなニューロン間でどのような活動相関が出るかというと、 明らかに共通のorientation preference、あるいは共通の色選択性を示すものに相 関が出ます。つまり、近くの結合というのは元々同じようなfunctional domainの 細胞が近くに集まっているから、かなりspecificityを持っています。それに対し て、300ミクロン以上離れたところにあるような興奮性結合というのは、 specificityが結構はっきりしていて、同じpreferenceを持ったもの同志がつながっ ているということです。もちろん、全く同じもの同志しか繋がっていないというこ とではなくて、全く同じものをピークにして、それから離れていくごとにそれらの 結合強度が落ちていくということですが。 (銅谷先生)そろそろ時間ですので、後の議論はレストランでということでよろし いでしょうか? 最後に一言加えたかったのですが、4層以下の細胞というのはあんまり見ていない です。小松先生がお話になられると思いますが、サルの4層以下ではむしろ面に応 答する、すなわち受容野よりも大きい刺激に対して全く反応が落ちないようなもの が出てきます。それはおそらく、別の機能に関与しているのではないかと考えられ ます。 それと、ああいうふうにadaptationが生じてしまうとgratingが見えなくなってし まうではないかと思われるかもしれませんが、そうではなくて、あるpopulationに adaptationが生じているときには、別のチャネルが働いているのかもしれません。 あるいは、それはひょっとしたら4層以下のニューロンと強い相関を持って働いて いるかもしれません。そういうふうに理解してください。縞模様が見えなくなって しまっては困りますから(笑)。 (以上)