タイトル:Cortical Dynamics and Neural Computation - Experiments, Analysis and Models - 講 師:Ad Aertsen レポーター:広上大一郎・深井英和・福田竜太・松本有央 \documentstyle[a4j]{jarticle} \begin{document} \section{脳について} これからいろいろなニューロンのスライドを見せていきます. まず,始めのスライド中にはニューロンや細胞体,樹状突起,軸索を見ること ができます.情報は軸索を通ってスライドの上から下に伝達されます. 次のスライドではゴルジ染色をされていて1つのニューロンが強調されて見え ます.また,ニッスル染色により,ニューロンの核が強調されて多数見えてい ます.よってこのネットワークは非常にdenseなものであることが分かります. 次のスライドにいきますと,細胞体以外の部分は黒く見えていまして,黒い部 分には軸索が張り巡らされています.どのようにニューロンが結合しているか ということは非常に重要でありまして,皮質の中で最も興味があることであり ます. 次のスライド中の表にはいくつかの興味ある数字が書かれています.これらは マウスの皮質についての数字であります.それぞれのニューロンは10000もの ニューロンのシナプスから入力を受けます.コンピュータも多数の点で結合し ていますので,脳に似ていると言われます.しかし,脳とは異なるであります. 皮質の1$mm^3$中には3kmもの軸索が存在し,400mもの樹状突起が存在し ます. \section{細胞集団の重要性} 昔の人は細胞集団を考えることが重要であるという考えに達しました. およそ100年前の1890年にWilliam Jamesが細胞集団を考えることの重要性 につ いて述べました.また細胞集団が学習に関係しているのではないかとも述べて います.ニューロン間の結合が共通の集団をつくり,さらに集団間の結合は柔 軟であります.彼は「生理学者が実際に細胞集団を記録するのは遠い未来であ ります.」と述べ,「おそらくできないのではないでしょうか.」とも述べて います.現在,集団についての生理学が行われようとしています. 皮質における結合についての知見から次のようなことが分かります.機能的集 合はニューロン集団内と集団間の相互作用を基礎にしてできるということです. すなわち皮質のニューロンは個々に活動するのではなく,機能的集団("cell assemblies" by Hebb)を形成するということです.ここで"cell assembly"に ついて話すときやデータを記録し解析するときには,いつでも使える定義が必 要になります.それは次のようなものであります.「ほぼ同時か何か特別なタ イミングの関係がニューロンの発火にある時,それらのニューロンはある集団 に属しているとします.」それゆえデータを見るときには,時間的な関係を調 べる必要があります.これから実際に1本の電極を刺して4つのニューロンを 記 録しているときのテープが流れます.電気的な活動を音に変えていますので, すべてのニューロンが発火した後は音が消えます. データを解析しようとしましたとき,それらに時間的関係があるかどうか疑問 をもちます.それについての基礎的な考え方を示します.一つは細胞集団です. 多くの細胞がありまして,発火率によって集団に含まれるかどうか決めます. これが"rate coherence"であります.もう一つの集団の決め方は,スパイクの 短い時間関係を使用します.ある時,あるニューロンが集団となっていますが、 時間が経過すると他のニューロンが集団になっています.時間関係が消失しま すと,グループ関係も消失します.これらには時間依存関係があります.すな わち,ニューロンはあるグループから他のグループに切り替えているのです. 次に,ネットワーク活動のレベルにおける皮質の機能についての研究について 述べます.次のような仮説が出されています.「位置関係により動的に組織さ れたニューロン集団が協調的に活動することで,皮質は情報を表現したり,処 理したりします.」そこで2種類の生理学実験を行います.一つは複数の個々 のニューロンのスパイク発生を同時記録するというもので,もう一つは仮定し た細胞集団内と集団間の相互作用の"sign"を解析するというものであります. 次のスライドは,皮質の時間毎におけるニューロンの発火の様子を記録してい るものです.クリスマスツリーのように時間毎にいろいろなニューロンが発火 していることが分かります. 次のスライドは猫の視覚野における記録であります.10個のニューロンについ ての同時記録であります.猫にスクリーン上に一定方向に動く棒を見せます. 時間が経つと,棒を異なった方向に動かすようにしています.ニューロン毎に 何回か試行をおこなったものを記録しています.異なるニューロンには異なる 色がついています.もし,ニューロン間の相互作用を調べたければ,それぞれ のニューロンの発火の関係を調べればよいのです. また,発火の時間関係を調べる古典的な方法は"cross correlation"を調べる ことであります.あるニューロンが発火しまして,発生したスパイクが少し後 に他のニューロンに到達し,そのニューロンを発火させます.これらはニュー ロン間に時間関係があることを示しています.平坦なヒストグラムのときは, 独立に発火していることを表しています.これにはニューロン間の時間関係が ありません.他に広い中心があるものや、とがった中心があるものがあります. これらには時間関係があります. これらの知見はニューロン間の結合の結果として解釈しようとしています.た とえば,ニューロンAとBが結合していまして,観察していないニューロンU か ら入力が入るときを考えます.Aが発火したら遅れてBが発火します.これは 映 画館の観客の拍手にたとえられます.発火が観客の拍手に相当します.後ろに 座って見えない観客がUに相当し,Uが拍手をしてしばらくして,AとBが拍 手を することになります.また,映画館のステージに相当するSという刺激がニュ ー ロンAとBとUに入ってきまして,それからAとBが反応することになりま す.Aと Bの2つでUから入力を受けるのに対して,Uは8から12の独立な変数であ るから, Uのことをすべて分かることはできません.よってこれは少し不良設定問題で あります. また,今度は7つのニューロンを同時に記録します.その時刺激例えば音を左 耳のみ,右耳のみ,両耳で聞くということにします.そうするとニューロン間 で少し異なる関係ができます.すなわち,刺激条件によってこれらの7つのニ ュー ロンの"effective connection"が変化します.よって相関が脳の働きに影響を 与えるといえます.後に基本的にニューロン集団の相関が時間依存で変化する と発見されました. ここ10年間で,ニューロン集団におけるスパイク活動の時間的な面が統計的な ものから動的な結合へ,すなわち,解剖学的結合から活動の同時性へと変化し てきました.もっと最近では相関ではなく,平均たとえば時間平均や試行平均 を考えるようになりました. \section{皮質ニューロン間の結合について} 結合の元になるものは何であるのでしょうか.もちろん結合には構造的な寄与 があり,それには次のものがあります.解剖学的結合すなわちシナプス結合と シナプス効率の変化すなわちシナプス可塑性であります.また,動的な寄与も あり,それには次のものがあります.localには,シナプス効率の速い調節す なわち"dynamical links"によって変化し,globalには,ネットワーク活動の 時空間的変化すなわち"dynamic convergence"によって変化します.これらの 例をモデルで述べます. \subsection{モデルの説明} *OHPにあるFig.4(a)と書いてある図  まずネットワークの構造について述べます.ネットワークは100個の "integrate and fire neuron"からなるfeedbackニューラルネットワークであ ります.ニューロンにはexcitatoryニューロンとinhibitoryニューロンがあり ます.図中の細く長い樹状突起をもち,細胞体が小さいニューロンが excitatoryで,太くて短い樹状突起をもち,細胞体が大きいニューロンが inhibitoryであります.また,excitatoryニューロンは"low pass filter"と して働きます.このネットワークは"associative memory network"であります. *OHPにあるFig.5(a)とFig.5(b)と書いてある図 次にシナプス結合について述べます.10個の入力パターンを学習した後のシナ プス結合はFig.5(a)のようになります.この結合は一定であります.入力パター ンはFig.5(a)の下にあるものであります.これではランダムに結合しているよ うに見えますので,見やすくするためにニューロンを並び替えたものが Fig.5(b)であります.Fig.5(b)の黒く固まった四角形が入力パターンの一つに 関連する"cell assembly"であります. *OHPにあるFig.6と書いてある図 Fig.5の学習終了後のネットワークを使用して入力刺激に対する活動を調べま す.ここでは入力刺激(Fig.6)を連続的に変化させます. Fig.6(a)のA,B,Cは学習するのに使用した10個の入力パターンから3つ選んだ も のであります.刺激を六角形の辺上を動くように変えていきます.例えば, AB-BAの線上では,刺激を2つの入力パターンA,Bの重ねあわせとし,AとB の割 合を徐々に2:1から1:2に変化させます.他の辺上でも同様に刺激を変化させま す. Fig.6(b)内の数字は例えば,SE1とはAとして記憶させた9番目のパターンを 選 び,Bとして4番目,Cとして2番目を選ぶことを表します.SE1〜SE4は六 角形を 時計回りに動き,SE5〜SE8は反時計回りに動いたときの刺激であります.始点 はABであり,終点もABであります.1つの辺上を刺激が変化する時間は100ms で あり,1周すると600msかかります.すなわち,600ms間刺激を変化させなが ら 与えることになります. このように変化させた刺激に対する応答を100個のニューロンの中から選ばれ た16個のニューロンで"multi-unit recording"を行います.この16個のニュ ー ロンのシナプス結合はFig.8の左下の図のとおりであります.これらのニュー ロンはそれぞれ3つの集団のどれかに属していることが分かります. *OHPにあるFig.7と書いてある図 Fig.7は先ほど選んだ16個のニューロンにSE1とSE3の異なった刺激を与え たと きの応答を調べたものであります.それぞれの刺激につき10回試行を行いまし た.上の2つの図はそれぞれのニューロンに対する入力を表し,下の2つの図 は それぞれのニューロンの応答のスパイク列であります.刺激と応答がほぼ似て いるので,刺激パターンを想起できています. *OHPにあるFig.8と書いてある図 今度はニューロン間の"cross correlation"を調べます.SE1〜SE8の8つの異な っ た刺激に対する応答のそれぞれの相関マトリックスを示します.刺激の与え方 によって相関が異なることが分かります.さらにSE1とSE5のように反対方向 に 刺激を変化させたときにでも相関が異なっていることが分かります. %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %3.2. JPSTHとニューロングループ間の相互作用 \subsection{JPSTHとニューロングループ間の相互作用} Fig8において同じグループ内にある強く相互に結合した2つのニューロンの JPSTHでは,2つのニューロンのPSTHは似たようなものとなります.しか し,PST Coincidence Histgramははじめは高く,ゼロになり,再び高い値を示していま す. 一方,Fig8において異なるグループ内にある2つのニューロンのJPSTHでは, cross-correlogramの平均がほぼゼロになっています.これはネットワークにお けるinhibitionによるものと考えることができます.inhibitionはネットワー クにおける全体的な活動を定常状態に持っていこうとします.2つのグループの ニューロンが活性化すると,inhibitionはそれらのグループが競合するように 影響を及ぼします.このJPSTHにおける負の相関の部分がそれを示しています. 発火率が下がると,2つのニューロンの相関が高くなっています.これらのダイ ナミクスは2つのグループの競合の結果によるものなのです. %3.2.1 .モデルにおける「実験」の再現性について \subsubsection{モデルにおける「実験」の再現性について} ここで扱うニューロンは確率的な性質を持っているし,32回の試行をした平均 をとっています.(詳細は後述します.)また16個のニューロンを100個のニュ ー ロンからなるネットワークの中から選んでいます.それぞれ似たようなPSTHを 持つニューロンA,ニューロンBとニューロンA,ニューロンCの2つのJPSTH が面白 い例です.この2つのJPSTHにおいて,PST Coincidence Histogramが大きく 異なっ ています. * 3つのJPSTHのあるOHP %3.2.2. モデルから推定する実際の結合 \subsubsection{モデルから推定する実際の結合} モデルから実際の結合を推定できることもあるし,大変難しいこともあります. これらのJPSTHで得られる相関は実際のニューロンのものであるべきですが,1 対1でマッチングさせることはできません.しかし正規化の問題に関しては,何 を問題にするかにより違った結論に導くことができます. %3.2.3. ニューロングループ間の競合 \subsubsection{ニューロングループ間の競合} 2つのグループ間で競合がなくとも,ダイナミクスは生まれます.午前中の伊藤 さんの講義で,effective connectivityの話がありました.ソースニューロンが ターゲットニューロンに軸索を投射していて,ソースニューロンのみが発火し ていて,そのターゲットニューロンに投射している他のニューロンは発火して いない状態は,その2つのニューロンの相関は低い.一方,ターゲットニューロン に投射しているいくつかの他のニューロンも発火している場合は,その2つのニ ュー ロンの相関は高いという話でした. この話と似たものがあります.ニューロン1がニューロン2に投射していて,さら にニューロン2には他のニューロン群からの投射があります.問題を単純化する ために,全てのコネクションの強さは同じで,発火は静的でポワソン分布に従う としました.これらのニューロン1・ニューロン2を記録して,それらの相関を計 算しました.この相関の値は,他のニューロン群の活動(background activity) によって左右されます. %3.2.4. background activity と effective connectivity \subsubsection{background activity と effective connectivity} JPSTHとニューロングループ間の相互作用はスパイクの活動とbackground activityの相互作用です.ネットワークのダイナミクスは,結合性(つまり相関) であるといえます.これらは,残りのネットワークの活動(つまりbackground activity)によって増えたり減ったりします.この現象は,単純化のために発火 にポワソン分布を使っていますが,それでも複雑な問題になっています.しかし, 次のように説明することができます. *Simple ModelのOHP あるターゲットニューロンの膜電位は, \begin{enumerate} \item その入力がポワソン分布に従っていて($ \lambda $), \item そこへ入力するニューロンN個が互いに全て独立していると仮定し, \item それぞれのシナプスの結合の強さを$ \beta $とすると, \end{enumerate} 平均:$ \beta\lambda N $で,標準偏差: $\beta\sqrt{\lambda N} $である正 規分布のグラフを使って考えることができます.ある閾値を定めると,その右側 の部分が発火率となる.ここで興奮性シナプス(定常値)を増やすと($ \alpha $),$\alpha $だけ閾値が左にずれたことになり,その分発火率が増えます.この 発火率の増加分がeffective connectivityを表しています.入力を変えること によって,同じシナプスでも違った効果をもたらすことがこの正規分布のグラ フを使うとわかりやすいでしょう. %4.Unitary event \section{Unitary event} *いくつかの方向に動くバーに対するネコの視覚野ニューロンのスライド これはこの講義のはじめの方に見てもらったスライドのサブセットです.ある 方向に動くバーに対して反応したニューロンについて,左側はニューロンごと に,右側は試行ごとに分類したものです.スパイクパターンは右側のラスタ表現 を見た方が分かりやすいでしょう. %4.1. オルゴールとtemporal coding \subsubsection{オルゴールとtemporal coding} * オルゴールのスライド ニューロンの発火の時間的パターンを考える時,耳は目よりも役立つこともあ るでしょう.オルゴールの凸になっている部分がそれぞれラスタを意味してい て,オルゴールを回すことによって時系列が生まれると考えることができます. \begin{center} 〜 メロディーが流れる 〜 \end{center} これは実際に同時記録された10個のニューロンのデータから作られたもので す. それぞれのニューロンにある音を割り当てました.そしてスパイクのある時点 でその音を出したというわけです.しかし,今聞いたものはリアルタイム性は再 現してません.もっともらしい音楽に聞こえるのはそのせいでしょう. ここで使われたデータの元となる実験は,異なる深さに存在する10個のニュー ロンを記録したものです.深い場所に位置したニューロンは高い音に,浅い場所 に位置したニューロンは低い音に割り当てました.音の割り当ては興味深い問 題を提起します.私は他の音を割り当てることもできたことですし.ここで聞い て頂いた音楽は,各々のスパイクの活動が何を意味するかを考えさせるもので す.記録したのは視覚野のニューロンでしたので,orientation tuningの角度を 記録してそれを音に割り当てることもできました.それが聴覚野のニューロン だったら,音楽からニューロンの活動を再構築できるかもしれません.その他に も,視覚野のニューロンの活動をを音ではなく映像に割り当てることも考えら れます. %4.2. Unitary event \subsection{Unitary event} *Fig11のOHP JPSTHを使って,スパイクパターンを解析するという話を紹介しましょう.この 場合,発火は刺激や行動がトリガーにはなっておらず,第3のニューロンの発火 がトリガーとなっています.つまり3つのニューロンの相関を見ていることにな ります. またビン幅は1msと狭くとってあります.図AのJPSTHの時間を見 て下 さい.縦軸では72〜171msで横軸では231〜330msとなっています.0ms付近 のもっ と早い時間ではビンの値が高く,同期はあまり見られませんが,このくらいの時 間になるとビンの値が小さくなります. 図Bを見ると1つ高い値を示すものが見られます.これはtriple intervalを意味 していて,それは図Dを見るとよく分かります.ラスタが縦に一直線に並んだ3 つ のラインがあります.これが相関を作っています.このライン上に位置するラス タの誤差はわずか1msです.なぜこれほどまでに正確なパターンが数百msとい う 時間を隔てて起こるのかということが興味深いことです.このケースでは,サル がボタンを押したり刺激を受けてたりするような行動とのシステマティックな 関係に,相関が起こる傾向があります. %4.2.1. Synfire chain \subsubsection{Synfire chain} synfire chainを紹介しましょう.ニューロン群がニューロン群に投射していま す.divergenceもconvergenceもあります.ここから説明できるのは,この synfire chainが正確にスパイクを伝えていった過程を記録した結果,先ほど説 明したような正確なパターンが3つのニューロンで見られるということです. synfire chainにおいて,あるニューロン群からその次のニューロン群へスパイ クが伝わる時間は1〜3msです.ですから,300msの遅延は約100以上の投射が ある ということになります.「意味のある」スパイクはsynfire chainを feed-forwardして伝わります.その他のスパイクについてはどうでしょうか? 全 てのスパイクは意味があって,OHPに見られるような3つのラインはその顕著 な ものだと考えることができます.ただ私は,その他のスパイクは,その他の synfire chainに関与しているものだと考えています.synfire chainの話は1つ のスパイクについて分析しなければならないことを示唆しています. %4.2.4. サルの実験でみられたUnitary event \subsubsection{サルの実験でみられたUnitary event} *実験を説明するOHP サルがcenter-outタスクをしている時の運動野の2つのニューロンを同時記録 した実験の例を紹介しましょう.PSはpreparatory stimulusを表していて,この 刺激はサルにどの方向に手を動かせばよいかという情報を与えます.サルは2番 目の刺激が来るまで手を動かさないように訓練されています.この実験では2番 目の刺激がくるタイミングが4通りあります.ES1・ES2・ES3・RSです.図 Bのグ ラフはサルの反応速度を表していますが,これは既に知られた事実でこの実験 で使われたサルが正常であるということを表しているのみです. *A〜Fの図があるOHP F図が実験の結果を表しています.RSのタイミングで2番目の刺激がくるものを 表しています.ここで興味深いことは2つのニューロンのの同時発火が顕著に見 られる時間です.図にあるように刺激があるだろうと予想される時点と,刺激が 来た時点に集中しています. *prefrontal cortexのニューロンを記録したサルの実験のOHP ここで他の実験の例を紹介しましょう.先ほどの実験と似たタスクを課したサ ルの前頭前野の6個のニューロンを同時記録した実験です.この実験ではサルに どの方向に手を動かすかを知らせておき,サルが一定時間待った後で手を動か すというものです.発火率の変化はあまり見られないのにも関わらず,サルが左 に手を動かした時と,前に手を動かした時の同時発火しているニューロンの組 み合わせが変わっているところが興味深い点です. *A〜C図のあるOHP これは,先ほどの実験を更に系統的に解析したことを示すOHPです.図Aは上段 が ラスタ中断が同時発火したポイント下段が中段の数が期待値よりも高かった点 (赤い点)を表しています.赤い点と発火率がどのように関係しているのかを 調べるために,赤い点の集中している部分における発火率の変化を調べました. 図Cを見るとわかるように,赤い点の集中している部分における発火率の違いは 実際に2番目の刺激が来たか,来なかったかという違いにおいて顕著に表れてい ます. %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% \subsection{再びsynfire chainへ} %4.2.3 再びsynfire chainへ まず以下のように発火パターンに関する2つの事例を挙げます. 時間的正確性を持っておこる時空間発火パターン(Abeles 1993) \begin{itemize} \item それぞれのスパイクのタイミングは2〜3msしかずれていない. \item パターンは数百msにもおよぶ. \item 刺激もしくは行動の発生時間に関連している. \item しばしば,このような活動に関連したイベント内のスパイクは全てでは なくとも殆どがパターンに含まれる. \end{itemize} 高い有意性を持ってcell同士が協調して引き起こす特異的なパターン “unitary event”(Grun et al 1994) \begin{itemize} \item それぞれのスパイクのタイミングは2〜3msしかずれない. \item 刺激もしくは行動の文脈に対して時間的に関係を持っている. \item 相関のないスパイク間においても見られる. \item 刺激もしくは行動の発生に対して大まかではあるが時間的固定している (50〜 100ms). \item 一つの試行でも同じ様な“unitary event”が何度も起こることがある. \end{itemize} ここで見られるように両者は刺激もしくは行動のあった時間に関係して発生し ています.しかしながら,後者のものは刺激や行動の発生に関しての時間的な正 確性は大まかなものになっています.これはニューロン同士は時間的に正確に 発火しているのですが,刺激や行動の発生に対しての時間的正確性はそれに比 べてあまりありません.この結果を試行回平均してみると刺激に対する時間的 関係は残ったとしても,スパイクのパターンは見えなくなってしまいます.まず, これを見つけないといけないのです.それではニューロン達はいったいどの様 にして発火率にばらつきを持っているのに時間的に正確なものを作りだすこと ができるのでしょうか?実際にニューロンが比較的時間的に正確性を持って発 火する実験的に示されたデータは幾つかありますが,ここではそれは省きます. *synfire chainを示した絵 それに対する考えとしてここにあげるのがsynfire chain というものです. まず,あるニューロンの集団が次の集団へ軸索を投射し,それがまた次の集団へ 軸索を投射していくとします.そして,ある集団にあるニューロンが同期して発 火することにより,その活動をつぎのグループに伝え,それを繰り返していって ネットワーク上を時間的正確性を保って流れていくというものです.あるグルー プにあるそれぞれのニューロンは次のグループにあるニューロンのそれぞれに 結合しており,グループのニューロンの幾つかが発火することによりそれに投 射を受けているニューロンを高い確率で発火させます.ただし,ニューロンには 不応期(refractory period )があるために,グループのニューロンが同時に全 て発火するとは限りません.そのため,ネットワーク上を流れていくのはそれぞ れのグループにおける幾つかのスパイクです.それを検証するために,我々は簡 単なニューロンのモデルを用いました. *Localy Feed-forwardのOHP この図で示しているあるグループから次のグループへの結合は解剖学的なもの を示しているのでなく,局所的な活動の時間的な変化を示しています.それゆえ に,始めのグループにおけるあるニューロンは他のグループにも参加している こともありえます.そこで出てくる疑問は,幾つかのグループを経るにつれて synchronous activityを保ったものもあるのですが,だんだんと消えていくも のもあることです.これはいったいどうしてでしょうか?この現象を検証してみ ました. *Pulse PacketのOHP それにはまず,それぞれのグループの活動を定量化しなければなりません.そこ であるグループにおけるほぼ同期して発火したスパイクの数をa,スパイクの発 火タイミングの平均時間からのばらつき(標準偏差)を$\sigma$ とした正規分 布を考えます. その2つのパラメータがグループを経ることによりどの様に変 化していくのかを調べてみました. \subsection{Model Neuron の説明} %4.2.4 Model Neuron の説明 *Model NeuronのOHP ここで考えられるそれぞれのニューロンモデルの簡単な構造としては以下のよ うなものです.まず,基本的なintegrate and fire neuronとしています.そして, それぞれのニューロンは10,000の入力を受け取っています.それは解剖学的に いうと10,000のシナプスを持っていることに相当している.ただし,グループか らの入力はその中の100個としています.それ以外の入力はbackgroundという こ とになります.グループからの入力は同期性を持ってニューロンに入力されて 来ますが,backgroundとする発火は非同期的に入力されるようにしました. Q:伝達時間は共通した値としたのですか? A:全ての結合における伝達時間は同じと仮定しています.後でお話しますが, そのことは殆ど問題ではありません. ここで皆さんに提示するものに関して は勝手に5msと決めさせていただきました. これらのニューロンが入力をchainから受け取っておらず,backgroundのみか ら であったとすると,我々としてはなるべく安定した状態になってもらいたいと 考えます.chainからの入力を受け取っておらず,すべてbackgroundであったと すると入力の約80%は興奮性,約20%は抑制性とします,解剖学的知見から得ら れるように.この状態でニューロンが一秒間に5回ほどで安定して発火するよう にしました.それにはこのニューロンに入力を送っている80%の興奮性ニュー ロンについても同じrateで発火して欲しいと考えます.その上で,このネットワ ー ク上のニューロンも安定性を保って発火するには抑制性ニューロンを10〜15 回 の発火とするように仮定することにしました.この状態にするとネットワーク 上のニューロンは安定して発火するようになりました.スパイク間隔の分布は ポアッソン分布におおよそ従っています.また重要な仮定として膜時定数は 10msとしました.文献によると,この値だとミリ秒という単位でポアッソン分布 に従って発火することができます.しかし,私自身はこの値は大きいのではない かと思っています.EPSP,IPSPの値は細胞内記録より得られた値を参照しまし た. \subsection{グループ遷移によるsynfire activityの変化} %4.2.5 グループ遷移によるsynfire activityの変化 *Dynamic Transmission FunctionのOHP このようなbackgroundを常に持っているニューロンにある数のスパイクをほ ぼ 同期させて与えると(ここではpulse packetと呼んでいるもの),ニューロンは スパイクを出力します.また他の(但し分散とスパイク数は同じ)packetを与え ると先のものとは違ったtimingでスパイクを出力したり,時にはスパイクを出 力しないこともあります.これを繰り返していき,試行回平均を行なうと入力す るpulse packetに含まれるスパイク数($a_{in}$)とその時間的分布 ($\sigma_{in}$)に対する,出力スパイクの確率($\alpha$)とその時間的分布 ($\sigma_{out}$)を得ることができます.これをこのニューロンのdynamic transfer functionとします.これが異なったaや$\sigma$でどの様に変化する かをグラフで表してみます. ここからわかることは,入力のスパイク数が多いほどそのニューロンのスパイ クを出力する確率は上昇していくのですが,入力スパイクの分散を小さくする ほどその上昇傾向は速く($\alpha$の値,すなわち発火する確率が)1に近づくよ うに変化してゆきます.ここでおもしろいのは,スパイク数を一定にしたときの 入力スパイクの分散に対する出力スパイクの分散を見てみると,小さな入力ス パイクの分散(横軸に$\sigma_{in}$,縦軸に$\sigma_{out}$を取ったグラフの 対角線上より上の部分にあるものに関して)では出力スパイクの分散は大きく なり,逆に大きい入力スパイクの分散に対しては出力スパイクの分散は小さく なるような傾向にあります.さらに,このときの入力スパイク数を大きくしてい くと後者の傾向はより強く利いてくる(時間の分散がより収束しやすくなる)こ とになります.しかしここで言っているのはまだsingle neuronの話であり,話 をchainに戻して考えてみましょう. まず,1つのグループにあるニューロンがそれぞれ次のグループにあるニューロ ン全てに結合を持っているとするします(completely connectedと呼んでい る). そうすると,あるグループにあるそれぞれのニューロンは前のグループから同 じようなpulse packetを受け取ることになるので,そのグループの統計的性質 は先に議論したsingle neuronの性質($a_{in}$,$\sigma_{in}$に対する $\alpha_{out}$,$\sigma_{out}$)から決定できることになります.すなわち,前 のグループのスパイク数と分散に対する次のグループのスパイク数と分散を求 めるには次のグループのニューロンの数だけ先のsingle neuronで得られた結 果を倍することになります.そういうことから,single neuron transfer functionとgroup transfer functionは同じものになります. *グループ遷移によるパラメータの変化を示すグラフ そうすると,前のグループのパラメータ($a_{in}$,$\sigma_{in}$)に対する次 のグループのパラメータ($a_{out}$,$\sigma_{out}$)を求めることができ,グ ループを経ることによるaと$\sigma$の変化を見ることができます.そこで得 ら れるグラフを見てみると,時間的に全く一致した45〜55のスパイクでもグルー プを経ていくごとに分散を増してグラフからはみ出てしまい($\sigma$が3ms 以 上になる),同期性は失われて行きます.また,初期値によっては最終的にグラフ 上のあるfix point(アトラクタともいう,ここでは大よそa = 95,$\sigma$=0.4)に集まるものもあります.それを分岐している境界線 (separatrix)より上は先のアトラクタへ向かい,それより下のものは$\sigma$ の値がグラフの外にあるようなアトラクタへ向かいます.すなわち,この場合同 期性が次第に失われていってしまいます.ちなみにここで用いているグループ は100個のニューロンからなるものですが,その数が変化することによりいった い何が起こるのでしょうか? Q:そのグラフよりはみ出てしまう$\sigma$の値ではactivityは完全になくな っ てしまうのですか? A:難しいことですが,そのような状態になってしまうとbackgroundの影響に よ る自発的な発火と殆ど区別がつきません.それにそこまで行くと二度と境界線 より上にいってばらつきが収束していくということはありません. Q:5発の同期したbackground activityがあったときはこの結果は正しいと言 えるでしょうか? A:我々が観測したのは一定しているような数発のbackgroundでした.しかも, 同期はしていません,なぜならいつでも同期したbackgroundが入ってきている ならある程度の安定した膜電位の揺らぎ(fluctuation)を観察することはでき ませんし,あるグループからの同期した入力が来たとしても,rateは特に変化し ないような状況になってしまうからです. 実際の結果を見るとそうにはなっ ていません.仮にあったとしても非常に稀でしょう. Q:先ほどの2つのアトラクタの内のどちらに集中していくかを決めている境界 線はグループ間の伝達時間に対してどのように変化していくのでしょうか?そ れがランダムであったときにはどうなるのでしょうか? A:仮に伝達時間がランダムであったとするとあるグループからのスパイクは 多少分散して次のグループに到達することになります.その影響で,先ほどのグ ループを経るにつれて変化して行く曲線は全体的に右(分散の値が大きい方)に ずれることになります.しかし,その結果でもなお境界線より上の部分に残るよ うなものは先ほどの上のアトラクタに次第に引き込まれて,一定したスパイク 数と分散を持つようになります. Q:fix point(アトラクタ)はグループのパラメータに対してどのように変化し ていくのですか? A:あなたようなの質問がくることをまさに計算していました. *グループにおけるニューロンの数を変化させていった図 それを確かめてみると,グループにおけるニューロンの個数を増して行くと, fix pointとsaddle pointがわかれて行き,減少して行くと互いに近づいていっ て,80個くらいになるとそれはしだいに分散して行く傾向のみしか見られなく なります.またそこで,一定のスパイク数aに対して次のグループを経ても変化 しないσの値を求めそれをプロットして,その作業によって作られる複数の点 を結んだ線(a curve,ここでは実線で書かれている)と,また同じ様に$\sigma$ の状態が変化しないaに関する線($\sigma$ curve,ここでは破線で書かれてい る)を作成し,グラフに書いてみるとその2つの交点は先ほどのfix pointと saddle point(そこを中心として2つのアトラクタに分かれていく点)に一致し ます.ここで$\sigma$ curveは一定なのにたいして,a curveはグループにおけ るニューロンの数が減少するにつれ,しだいに左のほうへ縮小して行くのでそ の2つの交点が互いに近づいて行くことになります.そしてグループにおけるニ ュー ロン数が80個ぐらいになると交点はなくなってしまい,synchronous activity は観測されなくなります.そのグラフからわかることは100個以下のcell group ではsynfire chainが起きにくいという事です.生理学的な予見によると安定し たsynfire chainを得るには50〜100のニューロンが1グループに必要とされ ま す. さらに,このシミュレーションのcellは膜時定数が10msであるにもかかわらず, synfireの時間的一致性(time precision)は1ms以下となっているので,この time precisionは膜時定数とあまり関係がないように思えます.これは困惑さ せることです,なぜなら,synchronous volley(グループからのほぼ同期した入 力)を受け取るようなニューロンは膜電位が鋭く増加し,それが小さくなってし まう前に閾値を越えます.そうすると,volleyを受け取ったときに確実に発火さ せたいのであれば最小限の膜時定数で済むということになります.時定数が長 いとその分だけ時間的に広がったスパイクを集めることになります,この場合 だと10msぐらいに渡って.我々はvolleyと他のスパイクを区別して欲しいので できるだけ短い時定数が必要になります.しかし,短い時定数では1つのvolley をvolleyとして見てくれず,むしろそれを別々のスパイクとして見ているよう に動作し,また決して閾値に達することはありませんでした.そういうことから 長い時間膜時定数を取ったほうがよいのですが,ここでは10msもあるのに,こ れ ほどまでに時間的一致性の高い(1ms以下の)ダイナミクスを得ることができる のです. Q:background activityの影響に関してはどうなのですか? A:その影響は非常に大きいです.それについて今から話しましょう. background activityの影響を変えるには2通りの仕方があります.まず1つは そ のactivityの規模を変えることです.activityを大きくすると興奮性と抑制性 の揺らぎの平均は変わらないのですが膜電位のfluctuationが大きくなります. 仮にbackground activityが低すぎるとvolleyが来ても閾値に達するには弱い ようなものになり,発火することがあまりできません.逆に高すぎると偶発的な 発火が多くなり,グループにおけるニューロンがrefractory period(不応期)の 状態にある割合が多くなります.そうなると,グループのサイズ(発火するスパ イクの数)が小さくなってsynchronous activityが減少していってしまいます. そういうことから,backgroundが低すぎても,高すぎてもうまく行かず,その中 間が良いことになります. Q:chainがfluctuationによってうまく動作しない方へ変えられるわけですね. その他の関係としてシナプス効率に対してはどうなのですか? *Simple Modelの図と$\alpha$の範囲を示しているOHPを重ねたもの A:ここのモデルに対して低くではあるがbackgroundがあった場合を考えて み ます. この膜電位の変動を表しているグラフにおいて,閾値を右の方 (backgroundで発火する確率が今よりも低くなる)へ持った場合には,シナプス 効率をより高くします. Abelesはbackgroundを比較的高い値にとっていま す. そのため,先に比べ閾値に達する確率がより高くことなるので,バランスを保つ ためにシナプス効率をより低いものにしています.ここでも似たように,noise はよい影響を持っていますし,逆に悪い影響も持っています. もう1つの最近調査しているものは,backgroundの相関を変化させることです. ここに出てくるモデルは非常に単純なものです.比較的安定した発火率を持ち, ポアッソン分布に従う,相関していない,というものです.もちろん実際にはそ うでない事は知られています.最後にビデオで示すように,脳の構造はもっと複 雑にできています.それは,何かしらこれらの話を織り交ぜて考えていく必要の あるものだと思います.それではビデオをお見せしましょう. \section{synfire chain をふまえて} %5 synfire chain をふまえて *movieの提示 これはcat のvisual cortexより記録しているものです.$2×2mm^2$上での optical recording, field potential, micro electrodeでの記録でそれぞれ の時間はすべて一致しています.ここにwhite dotが出たときは刺激を提示して いることを示しているのですが,仮にこのdotの点滅を手で隠して見ましょう. これらのactivityのみからいつ刺激が提示されているのかを果たして見分ける ことができるでしょうか?何度もこれを見るとわかるようになるかもしれませ んが非常に難しいことです.また,同じくこれらのactivityを見てどういった行 動がここで行なわれているかを当てることは殆ど無理でしょう.それは,この activityが必ずしも刺激と関連してはいないからです.同じ刺激を提示してい るにもかかわらず,activityは常に変化しているのです.面白いことに,多くの 研究者は普段はそれを試行回平均しています.そのことが意味しているのは試 行ごとでのactivityは変化しないものであるとするということなのです.試行 回平均を行なうことにより,それぞれの試行でのvariabilityは小さくされてし まっています.何かはわかりませんが,そのようにvariabilityが小さくされて できたものが実際の脳の活動を正確に映し出しているとは思いません.しかし, 仮に私達がsynfire chainの考えなり,他の考えを示そうとするなら,それを支 持するようなものをここのビデオにおいてでも示せないといけません.先ほど 示したアトラクタに関するいい考えはここのビデオでそれを支持することがで きれば,すばらしいものとなるでしょう.しかし,ビデオにおいてはそれを支持 することができないという状況では,いい考えではあったとしても,すばらしい ものとは言えないでしょう. %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% \section{質疑応答} Q: 神経細胞同士の同期それ自体は情報を部分的にしか担っておらず,情報の 内容は同期とはまた別問題だと思います.“情報”はこのモデルとどう関連し ていますか. A: まず始めに,発火のタイミングは,プロセスにいて生じるダイナミクスと してのみ重要なのです.タイミングは,ただ単にどの活動が生き残るかという ことを決定するものであって,それ自体に情報はありません.タイミングに興 味があるのは我々実験データを解析しようとする者だけです.発火の同期性に しろ遅れパターンにしろ,いわば指紋のように脳内で起こっている興味深い現 象を解析するために我々が利用しているに過ぎないのです.しかし脳自身はこ のような解析は行っていません.もしたとえそこに情報があるとしても,いま のレベルでその正しい概念を見つけることができるかどうかは分かりません. もし情報について述べるとすると,情報というのはニューロンの組み合わせに あると思います.ニューロンが行っているのは“だれと”が大事なのであって “いつ”が大事なのではありません.神経細胞間の組み合わせがそれぞれ個別 の効果を持つ細胞同士をグループ化し,かつ次へのグループへ,また次へのグ ループへとの道筋ができるのです.つまり,ある“特定の組み合わせ”が順次 発展していくものなのです.それはいわば動力学的なアトラクターです. Hopfieldモデルは神経細胞空間における静的なアトラクターといえますが, 我々 のモデルの場合これは動的なアトラクターです.というのもそれぞれのニュー ロンはたった1つのスパイクで参加し,活動は神経細胞空間を動的に通り抜け るものだからです.ではだれがその情報を読み取るのでしょうか.読み取るの は次のニューロンのグループにほかならないのです.個々のニューロンは他の およそ10,000個のニューロンから入力を受けています.ここで大事なのはつぎ に活動する100個のニューロンの組み合わせなのです. Q: 同期的発火によるあなたのモデルと,発火率による符号化のモデルにおけ る決定的な違いはなにですか? A: 基本的な視点の違いは時定数の違いにあります.どのような時間スケール で見るかによって,スパイク列は単一スパイクの事象から,込み入ったスパイ ク列の事象になり得ます.たとえば個々の単一スパイクを関数に置きかえると, 一回の試行における発火率の変化をみているのと同じような連続的な関数が得 られます.またどのようなスパイクを想定しているかによっても,発火率の視 点か同期発火の視点かを選ぶことが出来ます.誰もどちらを選ぶかについて止 めることは出来ませんし,またもしかすると複数の時間スケールがあるかもし れません.すなわち,神経細胞網には異なった時間スケールのものが同時に走 っ ていることが想像できます.Unitaly Event のモデルにおいても示されたよう に,スパイクの相関と発火率の相関には異なった情報があるでしょう.神経回 路網においては,様々な時間スケールイベントが同時に走っていると考えられ ます. Q: 脳は正規化された相関を計算していると思われますか? それとも正規化さ れていない相関を計算していると思われますか? A: あなたの脳は正規化された相関などは計算していないでしょう.正規化さ れた相関という概念はすべて実験者が実験データを解析するときに用いるもの です.ニューロンはただ単にスパイクを受け取ってそれに反応しているだけだ ということに注意してください. 例えば,刺激による相関と発火による相関 を分離するためにこのような計算をしているのです.つまり正規化された相関 を計算しているのは我々なのであって,脳が計算しているわけではないのです. ここで,確かに正規化されたJoint PSTHをアルゴリズムとして埋め込んだニュ ー ラルネットワークモデルを議論することは出来ますが,それは的を得た議論だ とは思いません.正規化は実験の為なのであって脳の為ではないのです. Q: 概念的な質問ですが,脳はどのように情報を計算していると思われますか? A: 私が思うに情報は時間にはありません.correlation にはありません.つ まりニューロン自身はそれに気付いていないということです.ニューロンが行 っ ているのはただスパイクが来るのを待って,条件がそろえば彼自身スパイクを 出すだけです.では,その条件とはなんでしょうか.私達はいま,大脳皮質の 話をしているのであって,小脳の話をしているのではありません.小脳の場合 はまた異なったストーリーがあります.大脳皮質では比較的低い発火頻度で, 小さなEPSPで,高閾値です.私の主張は,このような大脳皮質で生き延びる こ とが出来る唯一の活動は同期したスパイクの一斉射撃しかないということです. つまりそのような条件下で個々のニューロンができることは,じっと座って, 自分自身がスパイクを出せるだけの膜電位がやってくるのを待っているしかな いのです.それを見て我々は,ニューロンが効果的にcoincident detectionを しているというのです.しかし,もちろんニューロンがそんなことをしている わけではありません.ニューロンは単に膜電位のゆらぎをずっとみているだけ です.そこで,もしスパイクが起これば我々は十分な膜電位変化があったのだ と知るのです.それをもし我々が望むなら,ニューロンが同期していると言っ てもよいでしょう.しかしそれはあくまで我々がモデルとしての脳の話をする ときの方法にすぎないのです.個々のニューロンはただ条件がそろったときに スパイクしているだけなのです. \end{document} %%% Local Variables: %%% mode: plain-tex %%% TeX-master: "aertsen_note" %%% End: ==============================================================