タイトル:ニューロン・ネットワークの同期・非同期から見たダイナミクス 講  師:青柳 富誌生 レポーター:原田謙一、内藤智之  ニューロンが周期発火をしているとき(又はそう見なせる時)、このニューロンの ダイナミクスには位相の概念を導入できる。ニューロンがシナプスを介して結合して いる時、この結合されているニューロンが位相ダイナミクスをどのように変化させる のか? そして同期・非同期はどのようにして起こるのか? 本セクションでは位相ダイナミクスをキーワードに以上の事についてのモデル・解析 について論じる。  そのための前準備として、まず始めに、脳内の情報コーディングについてを紹介 し、基本的なニューロンとシナプス結合のモデルを勉強していく。次に、ニューロン のダイナミクスが位相表現に置き換えられることを紹介する。さらに、シナプスの時 定数が同期現象にどのように関わりを持つのか、そしてイオンチャネルが同期と非同 期にどのように関わりを持つのかを見ていく。本セクション終了時には、ニューロン の同期・非同期を位相ダイナミクスによって論じることが有意義であることをみなさ んが理解されることを望む。 1. 脳内の情報コーディング  生理現象として、脳が情報をどのようにコード化しているかについて、従来は ニューロンの発火頻度が大きな意味を持っていると考えられてきた。しかし近年にお いては、結合しているニューロン同士の発火するタイミングの同期現象が観測されて おり、実験においてもニューロンの同期現象に関する論議が数多くなされている。こ の様な状況を踏まえると、同期・非同期を論じることは有意義であると思われる。本 セクションでは、位相ダイナミクスの観点から論じる訳だが、振動は位相ダイナミク スを用いるために必要であるもので、同期・非同期を論じるのに必ずしも振動が必要 である訳では無いことは注意しておきたい。振動をしていなくても一つのインパルス だけ同期していることもある。よって、今回は周期的に発火している(つまり振動と 見なせる)ニューロン同士の同期・非同期を論じる。 (図OHPのIntroのを全部張り付ける。この文章中では図1とする) 2ニューロンとシナプス結合のモデル 2.1 ニューロンの生理モデル −Hodgkin-Huxleyタイプのコンダクタンスベースモデル−  ここで扱うニューロンのモデルは、ニューロンのコンパートメントを考慮しない、 単一のコンパートメントを考える。  すでにご存じの方も多いとは思うが、HodgkinとHuxleyは1952年にヤリイカの巨大 軸索を使ってニューロンを細胞レベルでモデル化した。 Cm * dV / dt = - (V - EL) / Rm - Iionic - Isynaptic (1) 右辺1項目はリーク項と呼ばれ、細胞膜は基本的に外液とは脂質二重層によって絶縁 されているが、完全な絶縁ではなく、ある程度の漏れ電流を生じ、それを表した項で ある。Iionic はイオンチャネルの働きによって発生する電流、Isynapticはシナプス による電流を表している。Iionic・Isynapticはさらに別の式で表され、Iionicは以 下の式となる。 Iionic = gNa * m^3 * h * (V - ENa) + gK * n^4 * (V - Ek) (2) gNa及びgKはそれぞれナトリウム、カリウムの最大コンダクタンスであり、チャネル の全開時でイオンがどの程度透過するかを表す値である。m・nは活性化変数といい、 hは不活性化変数という。どちらも、チャネルの開閉確率を表す変数で0から1の間 を取るが、活性化変数の方は1に近づくにつれて膜電位が上昇する方向に働く(脱分 極)。不活性化変数の方は、その反対で下降する方向に働く(過分極)。Eは各イオ ンの平衡電位を表しており、膜電位はこの平衡電位より上に行くこともなければ、下 に行くこともない。 また、各イオンチャネルの状態変数は次のような式によって表される。 dx/dt =α(V)(1-x)-β(V)x = -(x-x∞)/(τx) (3) x∞=1/α(V)+β(V) τx=α(V)/α(V)+β(V) (4) 但し、xはm,h,nのそれぞれの変数を表す。  式3のα関数はチャネルのオープン確率、同じく二項目のβ関数はクローズ確率を 表す。式3の上式を変形すると下式ようになり、この式はτxというタイムスケール でx∞に緩和するダイナミクスを表す。x∞は緩和時間と呼ばれ、τxは平衡点であ る。さらに、α(V)、β(V)関数はそれぞれ代表的なものとして表1のように決められ ている。 (表1:TraubらのActivation/Inactivation variable rate functionsの表を挿入) ここで、さらに具体的に各チャネルの状態変数のダイナミクスを図で見てみる。 (OHP中のfig6.3 VOLTAGE DEPENDENCY of THE GATING PARTICLESの図挿入: 但し、fig6.3(A)の方を本文章中では図2(a)、fig6.3(B)の方を本文章中では図2 (b)とする)。 (図2(a)には次の説明を入れる→縦軸:時定数=τx  横軸:膜電位 図2(b)には次の説明を入れる→縦軸:緩和時間x∞  横軸:膜電位 両図に次の説明を入れる→但し、両図とも静止膜電位は0Vである) 発火のインパルスは、m,n,hの状態変数が0→1の間で取る値と、平衡電位によって 作られる。基本はチャネルが開くと、ある平衡電位へと膜電位は行きたがるというメ カニズムである。図3は各イオンの平衡電位を図にして示したものである。 (fig 2.2 Effect of increasing membrane conductanceの図を挿入:本文章中では 図3) (fig 2.3 A,Bの図を挿入:本文章中では図4) 平衡電位から発火のメカニズムを見れば、Naチャネルが開くとその平衡電位である+ 50mV付近まで膜電位を上昇させようとする。しかし、遅れて開くKチャネルの作 用により、その平衡電位-90mVが膜電位を下降させるように働く。状態変数から 見れば、膜電位がしきい値を越えるとmの値が早い変化で(図2(a)でmの時定数が小 さいから)0→1へと上昇する。このため、膜電位はナトリウムの平衡電位へ向かっ て上昇する。次にKチャネルの状態変数nは膜電位の上昇後、少し遅れて0→1へと上 昇する。これによって膜電位はカリウムの平衡電位である-90mVが効き、膜電位の上 昇が落ちていき、下降へと向かう。Naチャネルの状態変数hは最初にある程度開いて おり、膜電位が上昇するとそれに伴い0に向かっていく。hは不活性なので0に行く ほど膜電位は上昇するのである。 2.2 シナプス結合のダイナミクス  ニューロン1つのスパイク生成ダイナミクスだけであれば以上で良いのだが、この ニューロンが結合したときは結合のダイナミクスを考えなければならない。  ・α function   Rall, W. 1967 I_syn=g_syn*α(t-tf)(V(t)-Vsyn) (5) α(t)={e^(-t/τ1)−e^(-t/τ2)}/{e^(-t_p/τ1)−e^(-t_p/τ2)} where t_p=τ1τ2/(τ1−τ2)(6) (OHPのαfunctionのグラフを載せる:図5) g_synは、シナプスの最大コンダクタンスであり、Vsynは対象となるシナプスが活動 するとどういう電位へ向かうかを決める値で、興奮性結合であれば0mV、抑制性結 合であれば−60から−90mVが通常用いられる。 図5は、α functionをグラフに表したものでτrは立ち上がり、τdは立ち下がりの 時間スケールを現す。 式6中のτ1,τ2は小さい方が立ち上がり、大きい方が立ち下がりを現す。 もし、τ1〜τ2〜τならば、式6は α(t)〜t/τ*e^(-τ/t) (7) となる。これを特別にsynchro α functionという。  ・Kinetic Model  Destexne et al, 1994 Isyn = g_syn*τ(t)*(V(t)-V_syn)  (8) ・rate variable τ(t)のダイナミクス dτ/dt = α*T(1-τ)-β*τ T=(1:ifシナプス前発火,0:Otherwise) (9) (ホワイトボードに書かれた、τ(t)のグラフ:図6) Kinetic Modelでは、α functionのα(t)のような関数系を決めずに、式9のようなダ イナミクスに従うモデルである。α(t)は実験データにフィットさせただけで、いつ も同じ関数系で前シナプスがどのような状態でも同じ重ね合わせをするものである。 しかしα(t)に相当するKinetic Modelのτ(t)では、前シナプスが発火した時にTを1 とし、発火しなかった時は0とする。よって、発火しなければτ(t)は0となり、シ ナプスの効果は減衰してなくなる。発火したときのみ、τ(t)は図6のように振る舞 う。両者の違いはあまりないが、Kinetic Modelの方が計算機シミュレーションを行 いやすい。このモデルはα functionのように実験データにフィットさせたわけでは ないが、次のような物理的意味を表現している。 ・ある電位以上は伝達物質が放出される( (9)式右辺第一項 )。 ・ある電位より下がると伝達物質は取り込まれる( (9)式右辺第二項 )。 3 発火タイミングと位相表現 3.1 位相ダイナミクスによる同期・非同期現象の解析  以上までによりニューロンのダイナミクスは理解できたであろう。多変数の微分方 程式にシナプスを加えたものである。これまでの式を簡略して現したのが式10であ る。  位相ダイナミクスはパターン形成、非線形動力学などで使われる手法で、周期的振 る舞いをする2つの力学系があるとき、弱い相互作用は互いの周期解がなくなるほど 崩さないことが知られている。よって、周期性を保ったまま相互作用がそれに加わる とき、周期的振る舞いをする力学系を位相という一変数に落とすことができるのであ る(式11 Y.Kuramoto 1984)。神経系で置き換えるならば、周期発火するニューロン が互いにシナプスを介して結合している時、周期発火をするニューロンのダイナミク スを位相に置き換えることが出来ると言うことである。先程のニューロンのダイナミ クスを現したHodgkin-Huxleyモデルで見れば、周期発火とは、X =[V(t),m(t),n(t),h(t)]の各変数が周期的に振る舞うために現れるものなので、それ ぞれの変数を4次元上にプロットすると閉曲線が出来上がる(リミットサイクル 図 7)。今、4次元上にリミットサイクルが出来ているが、我々が見たいのはあくまで も同期・非同期であり4変数の振る舞いではない。閉曲線上で、カップリングされた 位相が同じ値を取るか取らないかが問題なのである。そこで、力学系の自由度を減ら して位相情報のみとする。この考え方が、位相ダイナミクスによる同期・非同期現象 解析の基である。 (リミットサイクルと位相の図:図7 その隣のdXi/dt=Fi(Xi)+弱い結合の式:式(10) 蔵本らの振動子モデルの式:式(11) ) 3.2 位相ダイナミクス では、式10の弱い結合として、外力pを考える。この外力がなければある時刻t後には 図8aのΦ0からΦ1へと位相は変化する。では、外力をΦ0の一点に加えるとする。す ると、図8aのように軌道は外れる。ここで、X0(t)が安定周期解であるとする。する と、外力pによって軌道が外れたΦ0は安定な周期軌道であるため再びもとの軌道に戻 る。しかし、時刻t後の位相はΦiではなくΦpとなる。スパイクで見れば、それは発 火タイミングがずれることである(図8b)。 (位相ダイナミクスのOHPの上図:図8 a 下図:図8 b OHP中の式とその説明をそのまま用いて、上式のXについての式を:式 12 中式のΦについての式を:式13 下式のZについての式を:式14) 外力pは例えば電位を少し叩いたりすることへ置き換えられる。式12の外力pが充分 小さく、Xが安定周期である時、式13のように位相に置き換えることが出来る。さ らに、式を見ると外力は電位にのみかかっているのだが、生理的に見ればm,h,nのイ オンチャネルを決める変数にも外力がかかると考えられる。しかし、m,h,nは電位に 依存しており電位のみに外力をかけるように定式化できることに留意したい。 式14の位相応答関数は、電位をある位相の時に叩いたときに、どのように位相がず れるか(応答するか)かを見るための関数である。安定周期解がX_i(t)であるとする。 それをX_i(Φ)と書き換える。その場所で、その周期解の充分近傍にあると仮定して gradΦiで求まる。本来ZはZ_V(t),Z_h(t),Z_m(t),Z_n(t)を要素としてもつベクトル であり、この中で使用するのはZ_V(t)だけある。これは、外力p(X0,t)は電位の要素 だけをノンゼロにするので、電位に関する反応しか出てこないためである。だから、 求められるZ[Z_V(t)]は、Φという位置で、電位を叩いたときその瞬間の振動数はど う変化するかという値で、結局位相のズレはZ(Φi)を積分すれば解るので、外力に関 係なく、そのニューロンの特性を現すΦによって、位相応答関数は決まる。 3.2 周期解V(t)と位相応答曲線Z(t)の例 (周期解V(t)と位相応答曲線Z(t)の例のOHPの左図膜電位の変化:図9(a) 右図位相応答関数:図9(b) ) 図9はHodgikin-Huxley Modelの場合の周期解V(t)と位相応答曲線Z(t)の例である。こ の例では約14msの周期的な解である。図9(a)は膜電位の変化図で、(b)は横軸が(a)と 同じ位相スケールであり、電位を叩いたときの位相応答関数を現す。具体的に図を用 いて解釈すれば、スパイクの出ている最中(time 0msと14msの付近)は電位を叩いても 次のスパイクは同じ所にしか出ないことが読んで取れる。8msの時は、次のスパイク は遅れて出ることが解る。これは、先程のチャネルの状態変数の図2(b)を見ると、ス パイクの立ち上がる前はカリウムイオンの状態変数nがmより大きい。その時に電位を 叩くわけなので、その結果nがより強く効くことで、カリウムの平衡電位の方に強く 引きずられることで、次のスパイクは遅れてでるのである。一方、発火の直前である 11msの時は、同様な考え方から、ナトリウムの方が強く効いてスパイクが早く出るよ うになる。この様に、位相ダイナミクスから外力による発火のずれ方を見ることが出 来るのである。 以上までをまとめると次のようになる。 解析手法のあらすじ ・力学系Fiがある ・Fiから周期的に発火している神経系の周期解X0(t)を求める    dX/dt = Fi(Xi) 周期をTとするとX0(t)=X0(t+T) ・周期解から位相応答関数 Z(t)を計算    ・シナプスのダイナミクスを決める。 例:α(t)関数 ・2つのニューロンが結合しているときの相互作用関数Γ(Φ)を計算。 Γ(Φ)=1/T・・・・・・のOHPの式 式15 Z(t)は位相応答関数ベクトルZ(t)の膜電位Vに関する成分。      ・相互結合されている位相のダイナミクスを計算する。   dΦ/dt=ω+Γ(Φpre−Φ)  式16 式15の(-gα(t+Φ))(V(t)-Vsyn)はシナプスの力学変数p(X0,t)を置き換えたものであ る。これとZ(t)の積を取り、その時間積分したものを時間平均したのがΓ(Φ)であ る。これは1周期にわたる影響をを現すカップリングの項として式16で使われてい る。 ・Γ(Φ)の関数形と位相差のダイナミクス  式15,16から、Γ(Φ)が解析にあたって非常に重要であることがわかるであろう。 このΓ(Φ)の関数形と位相差のダイナミクスから何が解るのであろうか?  今、2つの周期的振る舞いをしている神経系が相互に対象結合している状況を考え る。すると式16は、  dΦ1/dt=ω+Γ(Φ2-Φ1)  dΦ2/dt=ω+Γ(Φ1-Φ2) 式17 式17と書ける。この時のΦ1とΦ2の位相差のダイナミクスは  dΔΦ/dt=Γodd(ΔΦ) 式18 ΔΦ=Φ1-Φ2 ニューロン間の位相差     Γodd(Φ)=Γ(Φ)-Γ(-Φ) ・定常解Φ0の条件Γodd(Φ0)=0 ・安定性Φ0の条件Γ'odd(Φ0)<0 (OHPの位相ダイナミクスの(a),(b),(c)の図を載せる:各、図10(a),図10(b),図 10(c)とする)  このΓodd(ΔΦ)を見れば、同期・非同期が解るのである。これを模式的に描かれ たのが図10である。  (a)を見ると、傾きが負の部分が安定解で、Γodd(Φ)=0の点を見るとちょうど横軸 Φの0の点を通過しているので位相差は0であると言える。(b)は位相差は有限解であ り、(c)の位相差は半周期ずれていると言える。ちなみに、今は対象結合と仮定して いるので定常解(Γodd(Φ0)=0)であり安定性(Γ'odd(Φ0)<0)である時、0とπで必ず 解を得る。だが、ここでの問題は同期(Φ=0)か非同期(Φ=π)かである。 4 シナプスの時定数と同期現象  さらに、相互作用関数とシナプスの時定数の関係と、シナプスの時定数と安定位相 の関係を現したのが図11(a),(b)と、図12(a),(b)である。 (OHPの相互作用関数とシナプスの時定数の図の左図Γ(t)を図11(a) 右図αとfを図11(b)  シナプスのダイナミクスの時定数と安定位相の相図の左図興奮性を図12(a) 右図抑制性を図12(b) の手書きのτ1とτ2が同じであると言う式も書いたものを載せる)  図11を見ると、シナプスの時定数により安定性がかなり変化することが解る。図12 は興奮性結合と抑制性の結合では安定位相が異なることを示している。興奮性では立 ち上がりのシナプスの時定数(α function)が充分小さければ(約3ms以下)、位相差0 の時が安定であり、少し時定数が長く(約3msから5ms間)なると、有限位相が安定して いる。さらに時定数が大きい(約5ms以上)と、半周期ずれたものが安定となり、位相 は同期するが不安定である状態になる。抑制性も興奮性とは安定・不安定がおおよそ 逆だが同じ考え方で見ればよい。 5 イオンチャンネルと同期・非同期  次に、イオンチャネルが同期・非同期に与える影響を見る。ここで取り上げるのは Spike Frequency Adaptationの振る舞いをするためのチャネルである。Spike Frequency Adaptation(図13(a))は、電流を注入したとき、始めは高頻度で発火する が時間が経つにつれ頻度は下がり、AHP(After Hyper Polarization)が発生する。こ れは100msにわたる長期のスケールで、この現象に寄与するチャネル(Ca2+,K+,I_AHP) をHodgikin-Huxley方程式に入れる。この章で取り上げるモデルは、図13(b)ののよう なコンパートメントモデルで、樹状突起と細胞体に別れており、樹状突起はpassive なものしか考慮してない。  式20はSpike Frequency Adaptationのモデルである。 (Spike Frequency Adaptationの図:図13(a) コンパートメントの図:図13(b) Spike Frequency Adaptationモデルの式 Caのダイナミクス:式19 Iionの式:式20 イオンチャネルのプロパティ) (Fig1 Bifurcation diagram・・・の図:図14 Fig4 Voltage traces depicting・・・の図:15 Fig5 Membrane potentials levels・・・の図:16 ) 図14はこのニューロンに電流を注入した時の特性である。0μA/Cm2の時、ある電位で 静かであるが、約3.28μA/Cm2で、同期的に振動をする。この付近での興奮した ニューロンを幾つか並べたのを見たのが図15である。図15のAはAHPがないときで、B はSpike Frequency Adaptationがある時のものである。Aを見ると、いつまで経って も同期しないが、Bは、徐々に位相差はなくなる。Spike Frequency Adaptationに寄 与するイオンチャネルの有無によって同期・非同期が関係しているのが判る。さら に、図16は詳しく位相解析をしたものである。上の図ほど、AHPがあり、下の図ほど AHPがない。左一列は膜電位の図で、真ん中一列は位相応答曲線で、右一列は位相関 数Γodd(Φ)であるが、ここでは、「−」がついている。そのため、図10とは見方は 逆になる。図16を見ると、AHPがないと周期解が安定でなく、上に行くに従って、有 限解が安定になり、一番上は位相差0が安定となることがわかる。 6.Integrat-fire neuronモデルによる解析 (Integrat-fire neuronモデルの左図:図17 右図:図18) 図18を見ると、早い立ち上がりの方(実線部)はシナプス結合の強さを高くしても 同期しているが、立ち上がりが遅い方は、シナプス結合が強いと同期しない。シナプ ス強度に同期・非同期が依存しているのである。 Summary ・同期・非同期の解析には位相ダイナミクスの手法が有効 −同期・非同期はシナプス結合のダイナミクスにおける時定数に依存 −ある種のイオンチャネル(例:AHP)の存在が同期ダイナミクスに寄与 −イオンチャネルやシナプスの機能を新たな視点(同期・非同期)で見直せる ・シナプス結合等が非常に強い場合(位相ダイナミクスの弱非線形解析が破れる) ↓ 同期・非同期はシナプス強度にも依存 (弱非線形解析の場合はシナプス強度は同期・非同期へ向かう早さにしか影響しな い) ニューロン・ネットワークの同期・非同期からみたダイナミクス 青柳 富誌生  担当 内藤智之 今回はネットワークということにはあまり触れない.「基本的にあるニューロンがあ るときに,シナプス結合がついたときにスパイクの同期・非同期という観点からどう いう相互作用をするのか?」という視点からモデルと解析手法を紹介する. ニューロンのモデルとシナプス結合のモデルについて ニューロンモデルはHodgkin-Huxleyタイプのモデルを題材として用いる. Hodgkin-Huxleyタイプのニューロンを2つシナプス結合で結んだときにどういうとき に同期・非同期が生じるのかを位相ダイナミクスとう手法を用いて解析する. プレのニューロンが発火してポストニューロンの膜電位に影響を及ぼすときにポスト ニューロンの膜電位変化の立ちあがり・立下りが,同期・非同期という観点において は重要になる. 最後にイオンチャンネルが存在することによって同期・非同期にどのような影響を及 ぼすのかを検討する. Introduction 従来のモデルでは平均発火率に情報がコードされているとして,スパイクレベルの時 間構造は無視されてきたが,最近になって発火タイミングの重要性が指摘されてき た. 例えば,図1のようなニューロンの発火率を考えた場合,平均発火率という点ではど のニューロンも等しいが,発火タイミングはそれぞれ異なっている.もし,このタイ ミングのズレに情報がコードされていれば,平均発火率だけみていたのでは情報がつ ぶれてしまうことになる.最近のは動物の高次脳機能を考える際に,同一刺激からの 異なるモダリティーの情報をバインディングするのにこのテンポラルな構造を利用し ていると考えれば,エレガントな説明が可能なのではないかと期待されている. 同期非同期を考える際には周期性は必ずしも必要ではないが,まだ理論の整備などが 進んでいないので,今回は周期的に発火するニューロンを対象として話しを進めてい く. ニューロンモデル 今回はイオンチャンネルを考慮に入れたHodgkin-Huxleyタイプのモデルを用いる.そ のさい,イオンチャンネルの分布はデンドライトやソーマで異なるので通用は分けて 考えるが,ここではシングルコンパートメントモデルをもちいて均一なものとする. (数式1) イオンチャンネルに関してはナNaとKの2つを考える(数式2). Hodgkin-Huxleyではチャンネルはm3乗,h1乗(Naに関して),n4乗(Kに関して)だ が,Traubの海馬CA3の錐体細胞モデルではm2乗,h1乗,n1乗になっている(数式 3). 基本的にHodgkin-Huxleyタイプの各種イオンチャンネルは以下のダイナミクスに従う (数式4).他のイオンチャンネルを薬理的にブロックすることによって,α・βは 実験によって測定できる.変形した式の右辺をみると,τxによって緩和されるダイ ナミクスとなる(数式5).従って電圧が一定ならある一定時間後にある値に落ち着 く. 質問:α・βを実験的に計るとありましたが,実際的にはx∞とτxを実験的に測ると いうことになるんでしょうか? 青柳:そうなると思います.最近はパッチクランプでイオンチャンネルの開閉確率を 直接計測することもできるようです. 青柳:taubはm,h,nの次数が落ちているため,スパイクのシャープさがなくなると論 文のなかでは述べています. 図2a:bはそれぞれ横軸にVをとり縦軸にτxとx∞をとったときのグラフになってる. 先ほどの式でm,h,nは0~1の値をとる.そのときチャンネルがあいていれば,gNaはお よそ+60mVにgClはおよそ-80mvに変化しようとする.図2aで,まず最初に静止膜電位 より閾値が少しあがったとする.時定数をみるとmが非常に小さいので,非常に早く0 から1になろうとする(図2b).一方hはもともと少し開いており(図2b),最初例 えば,0.7というような数値をもっている.少し時間がたってmが値をもつと数式2の Vは+60になろうする.次にチャンネルnが0から1に近づきます.暫くすると時定数 の大きい不活性化チャンネルhが効いてきて,スパイクの発生がおわる.これがスパ イク発生のメカニズムということになる.スパイク発生時のVの変化は図3Bに,そ のときのNa,Kの電流の変化はは図3Aに,m,h,nの挙動については図3のCに記され ている.これがHodgkin-Huxleyモデルの解説ということになる. シナプス結合のダイナミクス スパイク発生のダイナミクスを考えるときは以上のような説明でよいが,これがスパ イク結合しているときはどうすればよいかということを説明する.数式6のVsynは抑 制・興奮の行き先をしめしており,興奮性だと0mV,抑制性だと-60~-90mVの値をと る.そこにα(t-tf)がかんでいる.つまり,プレのニューロンが発火した瞬間からの 影響の挙動をしめしてる(数式7).逐次的な加算の影響はαfunctionの加算で再現 される.   最近ではKineticモデルが用いられることが多いようである(数式8).両者の違い はそんなにはない.計算機上での計算はKineticモデルのほうが楽になる.前者では 時系列的な変化を蓄えておく必要が生じる.後者のモデルでは,プレのニューロンが ある電位以上だとシナプスを放出し,それ以下であれば放出しないということを意味 している. シナプス結合に関する実験的なバックグラウンドはほとんどないと思われる. 位相ダイナミクスによる同期・非同期現象の解析 物理のパターン形成などの線形力学の手法では,神経系に限らず周期的な振舞いをし ている力学系が2つあるときに,お互いの周期が崩れない程度の弱い相互作用がある とき位相という1変数で落とすことができる.  例えば,V,m,h,nが周期的な時間の変数ですから,4次元軸でのある時刻にどこか 1点にいることになる.周期的なのである時間たつともとの位置に戻ってくる閉曲線 になる.このシステムが2つあり,お互いに相互作用している場合,興味はスパイク が同期するかどうかになる.その観点で見る場合,4つの変数はいらない.この場合 同じ時刻に兵曲線状のどこに居るかということが重要になる.これを位相ということ になる.V,m,h,nのそれぞれのパラメータの変化よりは,閉曲線上で同じ時刻に,同 じような場所にきやすいのか,それともずれやすくなっているのかが知りたいところ となる. ここでは周期解のでき方は関係なく,できてしまった後で安定であればよい. 具体的には,周期的に発火している神経系があったと仮定する.このときにある瞬間 だけ加わる外力Pを考える(例えば電位をたたくといった).そのときにこの系はど うなるのかを考える.Pが無ければφ0からφ1にぐるっと回ってきて,一定時間後に φ0に戻る.Pが加わると,軌道はずれるが,安定な周期回は崩れないので,またもと の軌道にもどってくる.しかし本来の軌道からはずれることになる.例えば,Pの影 響でスパイクがでるのが遅れるといった形であらわれる.Pが十分小さければ,数式 7であらわすことができる.位相応答関数はφのgradを求めることによって決まって くる. 位相応答関数Zはベクトルである.時刻φで外部からの入力があったときにその瞬間 振動数が動変化するかということを求めている.位相のずれは,積分によって求ま る.そのニューロンの性質によって位相応答関数は決まってくる.各成分は独立とい うことになる. 質問:1次元の落とし方に巧い落とし方,まずい落とし方があるのではないか? 青柳:安定な周期回を仮定しているので,それは大丈夫ということを仮定している. あくまで,弱い線形成分をあつかうモデルである.数学的には非常に狭い範囲でしか 証明でいながε=1くらいまで大丈夫(経験論で). 周期解V(t)と位相応答曲線Z(t)の例 図5が安定周期解の膜電位変化で,図6がそれに対応する位相応答曲線である.図6 をみていくと,まず,はじめは不応期に対応している.次の領域ではPがあるとスパ イクの出現が遅れる.不活性性のポタシウムチャンネルを活性かしてしまうことに よって,より発火しにくくなる.そのあとでは,ソリウムチャンネルを活性化させる ことになるので,スパイクの出現は早くなる.Integrate-Fireモデルではポタシウム チャンネルを活性化するところが無くなってしまう.たたけば,とにかくスパイクの 出現が早くなる. 解析手法のあらすじ 周期的に発火している神経系の周期解をもとめ,位相応答関数Z(t)を計算する.シナ プス結合のダイナミクスを例えばαfunctionのように決定.2つのニューロンが結合 しているときの相互作用関数Γ(φ)を計算する. Γ(φ)の関数形と位相差のダイナミクス 2つの周期的振るまいをしている神経系が相互に対称結合している状況を考える.Γ は求まっているとして,数式8・9のように書ける. Γ関数(数式10)の形をみれば,ニューロンが同期するかどうかがわかる.問題は 0とφのところが安定化どうかということである. シナプスのダイナミックの時定数と安定位相の相図 今,τ1とτ2を同じにしている.興奮性結合の場合,シナプスの立ち上がりの時定数 が十分小さければ,位相差0が安定となる.ところが,シナプスの時定数がすこし長 くなると,有限位相差が安定となって,φずれたところが安定となる.位相差0は同 期するが,不安定になる.抑制性結合の場合,時定数が十分短いと位相差がφずれた ところが安定になっており,ある時定数から位相差がφずれたところと位相差0の所 が両方安定になり,その後,位相差0のところが安定となる.抑制性の結合でもシナ プスの時定数が十分長ければ,同期解が安定するといくことは,十分ありえることで あるといえる. シナプスの時定数が同期・非同期に重要に関わっているということがいえる. イオンチャンネルがあることによって同期・非同期が変わる場合 ある,AHPというイオンチャンネルがあると,電位を流入した場合,AHPによって spike frequency adaptationといって,発火の頻度が落ちていく現象がみられる.タ イムスケール的には100ms程度の長期にわたることが知られている.  このチャンネルを力学モデルに組み込んだ場合,デンドライト(passive)とソー マで分けて考えると,このAHPはCaに依存して閉じたり,開いたりすることがわかっ ているので,Caのチャンネルを同時にいれないといけないことになる. Spike Frequency Adaptationのモデル プリント参照 AHPカレント無しだといつまでも発火しつづけているが,AHPカレントいれたモデルだ と発火がだんだんそろってきているように見える.実際のシュミレーションでは, AHPカレントを入れないと位相差0(同期解)は安定ではない.徐々にAHPカレントを 入れていくと,だんだん有限位相差が安定になり,最後には位相差0(同期解)が安 定になる. AHPカレントはパッシブな機能として考えられているが,同期・非同期という観点か らみると,AHPカレントがあることによって同期が生じやすくなっているといえる (積極的な意味がみえてくる). まとめ 同期・非同期の解析には位相ダイナミクスの手法が有効 同期・非同期はシナプス結合のダイナミクスにおける時定数に依存している. ある種のイオンチャンネル(今回はAHPをとりあげた)の存在が同期ダイナミクスに 寄与している. イオンチャンネルやシナプスの機能を新たな視点で見直す シナプス結合が極端に強い場合などには弱非線型解析が崩れているので利用できな い.→シナプス結合が非常に強い場合には同期・非同期はシナプス強度にも依存す る.こういうことはシュミレーションでみるしかない. 同期のほかのメカニズムとしてspike doubletsなどがある. この解析はあくまで予備的にニューロンの弱線形性を仮定して用いるものであるり, これでどこまでもいけるというものではない. Integrate and Fire modelはニューロンぽい振舞いをするから用いられているが,同 期・非同期という観点からみると病的な振舞いをみせる.同期・非同期という観点か らはHodgikin-Huxley モデルを用いたほうがよういのではないだろうか? 質問:現実的にはニューロンは周期解を受けていることの方が少ないので,現実的に はこの手法がどれほど有用なのでしょうか? 青柳:決して適応できる範囲が万能だといっているわけではない.ホワイト・ノイズ のようなものを考えると苦しいかもしれない.その辺はこれから調べる価値のあると ころで,現時点では分からないことが多い.