タイトル :大脳皮質の局所解剖 講  師 :金子武嗣 レポーター:深貝 卓也・田仲祐介 1. はじめに 中枢神経系の最も重要な機能が大脳皮質に存在しているということについては多く の神経科学研究者の見解が一致するでしょう。認識・感情・思考・意識・記憶など、 科学的な立場からしても未だに神秘的に見える機能を顕現している大脳皮質がいった いいかなるデザインを用いているのかを論じてみたいと思います。  はじめに言っておきたいことなのですが、私は脳が情報処理マシンにすぎないとは 考えていません。私たちの脳が情報を処理しているということは間違いないのですが 、それだけではないという想いが強くあります。脳の機能を考えるとき、通常の実験 研究の場面では研究対象を機能局在論の枠組みの中でごく自然に考えております。し かし、意識障害や痴呆などの臨床医学的な対応を迫られるときには、結構、全体論の 立場に立ってその対象を見つめています。この辺を医学系の研究者は自然に使い分け ているわけですが、真面目に考え直してみますと、局在論と全体論の間で自分自身を ごまかしていることに気づきます。さて、脳を情報処理マシンと見るときには機能局 在論に偏りがちです。視覚・聴覚など異なった種類の情報が入力するわけですし、最 初から機能は分離・局在しています。情報処理マシンの機能は入力情報の性質に左右 されるわけですから、ある機能が特定の皮質領域に局在することは当然のことだと思 われます。一方で、実験研究でも最近は注意・動機・作業記憶などといった機能局在 のはっきりしなくなりそうな主題を扱いだしていますが、こういった機能は上記のよ うな入力情報の処理といった枠組みを超えていて、脳を情報処理マシン以上のものと してとらえているのだと思います。もう少し踏み込んで言えば、脳は統一された機能 体であって、マルチタスクをこなしているコンピュータではありません。個々の情報 処理は個々の皮質領域で分散処理されていますが、それらの活動は何らかの形で束ね られていて、そこを臨床的には意識が晴明である状態として捉えています。ここが崩 れているときには、意識障害あるいは意識変容などと呼んで臨床的には区別するわけ です。大脳皮質あるいは脳という機能体は、その二重性に、すなわち、精緻な情報処 理マシンであり、かつ統一された何者かでもあるというところに妙味があると私は考 えます。実際の脳研究の中では、脳を局在論的に情報処理マシンとして捉えることが 多いのですが、脳を情報処理マシンとして機能局在論的に見るだけではなく、全体が 統一されたダイナミカルシステムとして捉えて、脳のモデルを組み立てていっていた だきたいと願います。 2.脳の外観 人の大脳皮質はおよそ26億から230億の神経細胞から出来ています。脳全体のニュ ーロン数は約1000億で、これらのほとんどは小脳のgranule cellです。しかし、小脳 をとってしまったとしても意識障害は表れません。大脳皮質全体が障害を受けるとこ の意識障害が表れます。人の大脳皮質は、400cm2ほどに広がる1.5から4mmの厚さの薄 いシートとして広がっており、それが折り畳まれて頭蓋に収められていま (fig.1)。 これは、大きく、前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉・辺縁皮質などに分けられます( fig.2-a,b)。さらにBrodmannなどによって、50余りの領域に分類されています。これ はNissl染色等(fig.3)を用いて染め出されたパターンの違いを基に分類されたもので すが、この分け方は一意に決まるものではありません。Brodmannの脳地図(fig.2-a', b')が生き残った理由の一つとして一次運動野などの機能的にまとまった領野を良く 分類できていたことが挙げられます。ただし、ブローカ、ウェルニッケ野といった言 語野はこの分類では複数の領野にまたがることになります。これらの領域はさらに分 割されて、機能単位であろうと考えられる離散的なカラムと呼ばれるモデュールから 構成されていると考えられています。ただし、大脳皮質のそれぞれの領域が機能分化 しているとしても、それぞれでまったく独立の作動原理を持っているというわけでは なさそうで、その構成要素と構築(デザイン)についてはどこをとっても共通のものが 認められるということがあります。したがって、何らかの大脳皮質全体に一貫した基 本作動原理が存在するであろうと考えられます。 3.構成要素 構成要素であるニューロンにはいったいどれほどの種類があるでしょうか?従来は、 形態学的な分類が主として行われており、錐体細胞と非錐体細胞というのは形態的な 名称です(Table1,2)。非錐体細胞にはその形態から機能が推測されるようなものもあ り、Basket cell, Chandelier cell, Martinotti cell など非常に多彩です(Table2; Fig.6)。Basket cellの名前はaxon basketがあることに由来します(Fig.6)。Basket cellは抑制性細胞であり、そのaxon basketはシナプス後細胞のsomaにくっついて、 強力な抑制作用をおよぼすと考えられています。Double bouquet cellの名前は、そ の樹上突起が上下に花束のように広がっているということに由来しワす。Double bouquet cellに分類される細胞の軸索は、細いコラム内を上下に伸びていなければな りません。Chandelier cellの名前は軸索の先端がろうそくを立てたような形状をし ていることに由来します。Chandelier cellはaxo-axonic cellとも呼ばれ、その軸索 末端は、錐体細胞の出口である軸索の根元に沿うように伸びています。これにより、 抑制性のChandelier cellは、その投射先の細胞が情報を他の細胞に伝えるのを抑え る働きをします。ただし、Basket cellなどとは異なり細胞が発火すること自体を抑 えるわけではありません。こうしたことを踏まえてモデルを組み立てると、随分違っ た像が描けると考えられます。また、これは、形態がその機能と密接に関わっている ことを示す一例でもあります。 Q; firing pattern とかはある程度分かっているのでしょうか? A: Basket cellとChandelier cellはfast spiking cellです。今日はそちらのデータ のほうはほとんど出さないのですが。fast spiking cellは非常に速くfiring できる 細胞で、錐体細胞ですと200Hzぐらいなのですか、300から500Hzでも発火できる強い 抑制性の細胞です。特徴としては、ある閾値までくると突然、高頻度で発火し始める という点があげられます。それ以上強い電流を流すとさらに発火頻度が上昇するので 、階段関数的ではありません。firingの特性をチェックするときには、例えば矩形波 の電流を与えます。この入力電流を横軸、縦軸に発火頻度をとることにします。電流 がある値に達するまではずっと黙っているのですが、あるところまで来ると突然、発 火し始めます。そこから電流を強くしていけばある程度上がっていきます。もちろん 上限はあるのですが。特徴はやはり、このthresholdをもったオン・オフ的な感じの するburst firingの開始です。一方、錐体細胞の場合、入力電流を大きくしていくと だんだんと発火頻度も増加していきます。  Spiny、Aspiny(smooth)といった分け方は、樹上突起上の受容部分に小さな突起が 多く出ているかいないかに基づいています。突起部がたくさんある細胞をSpiny cell と言い、少ししかない細胞をAspiny(smooth) cellと言います。  Table.1はAbelesのCorticonicsからとってきたものです。一応、Human tissueで考 えていたと思います。錐体細胞が75%、まあいいとこですね。動物によって少し違う のですが、私も6割から9割の間だと思います。つまり、錐体細胞が主要な細胞だとい うことです。smooth stellate cellが15%。spiny stellate cellが10%、はちょっと 取り過ぎだと思います、定義にもよるのですが。spiny stellate cellは結局、 apical dendriteを失った錐体細胞と言っても良いわけですから、抑制性細胞は15%と いうことになります。私が数えた限り、人間の場合、2〜3割は抑制性細胞だったと 思うので、この15%という値は少し小さいように思います。ラットではちょっと少な くて二割を切っていたと思います。シナプスの数で見る限り、興奮性は九割、抑制性 は一割となっていますが、axo-somaticな結合の割合等を考えないと、細胞体での EPSP、IPSPの割合に結び付けることはできません。また、この表はAbeles自身が数え て出したのではなく、様々な文献のまとめなので、気になる人はCorticonicsに載っ ているもとの文献をあたってみてください。 最近になって、ニューロンが発現している蛋白質・ペプチドなどの化学的な性質をも とに再分類が進みつつあります。蛋白質・ペプチドなどに対する抗体を用いた免疫組 織化学的手法(Fig.7)がこの再分類を可能にしています(Table3)。錐体細胞とspiny stellate cellは興奮性のグルタミン酸作動性のニューロンで、無棘性(aspiny)の非 錐体細胞はGABA作動性の抑制ニューロンであることが判明して来ました。後者のGABA ニューロンはさらに、 (1) ParvalbuminというCa binding proteinでマーキングされるグループ。 電気的には、Fast-spiking cell。形態学的にはBasket cell, Chandelier cellが含 まれる。 (2) Somatostatin, Preprodynorphin, mGluR1αでマーキングされるグループ。  Martinotti cellはこのグループに含まれる。Martinotti cellは軸索を大脳皮質の 表面に伸ばしている細胞。neuropeptide Yやnitric oxide synthaseなどを含有する サブグループが存在する。 (3) 化学的に多彩なグループでいろいろなサブグループ。 形態学的にはbipolar型の細胞が多い。 の大まかにいって3つのグループに分けることができます。  かつて、Nissl染色等の染色法は、偶然染まるものが見つかればそれを見るという かたちで進んできました。60年代以降、染色に抗体が用いられるようになり、初めて 染めたいものを染めるということが出来るようになりました。抗体は三次元構造を持 つ、様々な物質を特異認識することが可能です。具体的には、Naを特異認識する抗体 を作ることはできませんが、例えばGABAなどの比較的小さな蛋白質を特異認識する抗 体を作ることも可能です。この染色法では、まク様々な蛋白質等を特異認識する抗体 を作成します。これを作ることは大変で、研究者の腕の見せ所となります。次に、こ れを目で見えるようにします。Fig.7に二通りの方法を示しました。どちらの方法で も、まず、二次抗体という先に作成した抗体を認識する抗体を作成します。一つの方 法では、この二次抗体に蛍光色素を化学的に結合させて、それに光をあてることによ って観察します。もう一つの方法として、ビオチンを結合させた二次抗体を用いる方 法があげられます。ビオチンはアビジンと強く結合します。そこで、このアビジンに 酵素を付けて、その酵素反応を用いて可視化します。また、二種類の抗体をうまく使 い分けて二重染色し、ある物質とある物質が共存しているかいないかを見ることもで きます(講義中のグルタミネースとパルブアルブミンの染色図)。これは、VI層の錐体 細胞を細胞内染色してえられた図です(VI層の錐体細胞×2の図)。一方はグルタミネ ース陽性の錐体細胞で、もう一方は陰性の錐体細胞です。これらの細胞は電気的な性 質と軸索の張り方も異なります。陽性の錐体細胞は最近注目されている、chattering を起こしますが、陰性の細胞はそのような電気的性質を持っていません。また、これ らVI層にある錐体細胞は共に視床に投射するのですが、その軸索側枝の広がりかたに は違いが見られます。グルタミネース陽性の錐体細胞は軸索側枝を周囲約1mmに渡っ て伸ばし、他のコラムにも投射します。一方、陰性の錐体細胞の軸索側枝は同じコラ ム内に限局しています。これらの細胞の割合はほぼ半々です。 4.大脳皮質の局所回路 さて、そうした構成要素によって作られている大脳皮質の局所回路について、私達の 仕事を中心に紹介します。大脳皮質はその広がる平面に垂直なコラムモデュール(直 径300〜500μm)の集まりで出来ていると考えられています。さらに、各コラムは水平 方向に六つの層に分類されます。これらの層は、層ごとに異なった入出力特性を持っ ています。まず、入力についてですが、主要な入力層であるIV層には視床からの入力 があります。なお、視床からの入力はVI層にも入ってきます。II/III層には他の皮質 領域からの入力があります。次に、出力についてですが、出力はほとんど錐体細胞に よって行われます。VI層の錐体細胞は視床へ投射し、主要な出力層であるV層の錐体 細胞は皮質下のさまざまな領域へ投射します。また、II/III層は共に皮質間連絡に関 わるのですが、III層の錐体細胞はII層の錐体細胞に比べより遠くの皮質領域へと投 射します(Fig.8) 。これらの錐体細胞は皮質内に多数の軸索側枝を出しており、これ らが興奮性皮質内局所回路の主要な構成成分になると考えられます。こうした錯綜す る皮質の神経回路を明らかにしようと「From one to many」という戦略を立てて実験 しています。電気的な性質と化学的な性質をつきとめた一個のニューロンを細胞内染 色してその皮質内軸索側枝の全体を可視化します。加えて、何らかの機能で一括りに されるニューロンの一群を、別の手段で、ニューロンの入力部位である樹上突起の末 端まで可視化します。こうして一個のニューロンから一群のニューロンへ「From one to many」に、神経連絡の様相を研究し、ニューロンの組み合わせのいろいろなパタ ーンを調べあげようというわけです。こうして、最終的には皮質内局所の、すなわち コラムとその近傍のコラムにおける神経回路のデザインが決定できるであろうと考え ています。一例として、ネコの体性感覚野2野から運動野4野への神経連絡を調べた実 験を紹介します。これは、vivoの実験で2野に7本の刺激電極を刺し、ここを同時に電 気刺激したとき、EPSPを発生させた4野の細胞を測定した実験です。4野の細胞の応答 潜時は2野への刺激を繰り返すことによって変化する場合と変化しない場合とがあり ました。この変化はポリシナプティックな経路が変化したために起こったと解釈する ことができます。一方、モノシナプティックな経路の場合、潜時に変化が生じては困 るのですが、EPSPのサイズが変わっても良いはずです。実際に、4野へのテタヌス刺 激を繰り返すことによってLTPを示す例も見つかりました。このような実験はvivoで は難しいのですが、vitroだけでなくvivoでも行う時期に来ていると思っています。 次に2野から4野へと投射している錐体細胞を細胞内染色し、さらに2層の錐体細胞集 団をその樹上突起にいたるまで染色します。このように二重染色されたニューロン間 の結合関係を顕微鏡で調べていくと、局所的な投射関係が分ってきます。従来から、 破壊実験により、体性感覚野から運動野へのフィードバック信号を用いて運動学習が 行われうることは示されていました。今回の実験で調べたことは、体性感覚野から運 動野の出力ニューロンへと興奮が伝わる経路がどのようになっているかということで す。一個の錐体細胞を細胞内染色し、その投射受けるニューロン群を樹上突起まで染 色することで局所回路の様相が地道には描けていけます。また、現在、遺伝子工学を 使って遺伝子発現により特定される一群のニューロンを樹上突起まで染色する方法を 開発しています。 5.脳の大域的神経回路  皮質の構成要素・局所連絡がわかったとして大脳皮質の神経回路の理解について十 分だと言えるでしょうか?もちろん、皮質領域間の階層性によって情報処理のレベル が上昇するあるいは下降するという問題がありますが、ここでは別の側面を強調して おきたいと思います。すなわち、大脳皮質と皮質下の神経核(Fig.9)との連絡にとっ て、原則となる以下の三つの点に注目したいと思います。 (1) 大脳皮質の各領域はそれぞれ対応する視床核をもっていて、そこから入力を受け 、入力する視床核へ興奮性にフィードバック出力するという極めて密な関係が存在し ている(Fig.10)。 (2) 全ての大脳皮質は大脳基底核の線条体に出力する。基底核の出力結果は主として 運動系の皮質領域に視床を介して戻される。 (3) 全ての大脳皮質は脳幹の橋核を介して小脳に入力する。そして、その演算結果は 大脳皮質の運動領域に戻ってくる。 このような大脳皮質の連絡の一般原則は、皮質神経回路の特性を考えるときに考慮か ら外せません。というのは、皮質局所のニューロン間の連絡について2-5msecはかか るのですが、こうした視床・線条体・小脳への入出力も同程度の時間遅れで可能だか らです。これは、皮質外への出力が有髄繊維によってなされるからです。以上から、 これらの皮質下部位は空間的には遠いのですが、時間的には皮質内と同程度の距離に あると言えます。したがって、大脳皮質で情報処理がなされてその結果が皮質下部位 に伝達され、またそれらの部位での情報処理が終わると皮質に戻されて次のスッテプ に進むというシリアルな描像は正しくないのです。反対に、皮質で情報処理をしてい るまさにその時間スケールで並行して処理された情報が皮質情報処理に影響すると考 えなくてはなりません。言い換えれば、皮質とそれに直結する皮質下部位とを一塊と なったダイナミカルなシステムとして捉えなくてはならないということになります。 こういった描像は離れた皮質領域間でも同様に考慮しなければならないでしょう。 ここでは、特に視床皮質間結合に注目してその神経連絡について考えてみます。前 節、大脳皮質の局所回路で述べた染色法を用いることによって、皮質内の神経連絡を 調べた結果を紹介します。皮質内での連絡に限ると、VI層の錐体細胞は主にV層の細 胞から投射を受けます。これは、V層の細胞がVI層まで投射しているというわけでは なく、VI層の錐体細胞がV層まで伸ばしている樹上突起に入力があるということです 。このような投射関係は受け手の樹上突起まで染色しないと分かりません。一方、II /III層の錐体細胞からはV層の皮質脊髄投射ニューロンへの入力は多いのですが、VI 層の皮質視床投射ニューロンへの入力はあまりありません。なお、IV層の細胞からは 、II/III層にも投射があります。これらの投射関係から、視床からIV層へ入ってくる 情報の流れとして、II/III層へと伝えられ情報処理される経路と、V層からVI層を経 てまた視床へと戻される経路を考えることができます。 アルツハイマー型痴呆症だった亡くなられた患者さんの大脳皮質をグルタミネース をマーカーとして染色すると、浅い層において染まった細胞の数が大幅に減少してい ることが分りました。アルツハイマー型痴呆症は皮質の病気であるにも関わらず、他 の皮質変容と比べ意識障害を起こしにくいという性質があります。このことから、ひ ょっとすると視床と皮質のV/VI層を結ぶ神経回路が意識などの統一的なシステムに重 要な役割を果たしているのではないかと考えています。大脳皮質とそれに直結する神 経構造が一塊として作用するからこそ、私たちの脳は巨大なダイナミカルシステムと して統一されて、意識・内的時間などといったシステムの統一を必要とする「神秘的 」機能を実現しているのかもしれません。 補足(金子); 講義の中では、皮質・視床・基底核・小脳を一塊の動的システムとして捉えて欲し かったために、少し強引にかつ端折って話しをしました。そこで少し補足させていた だきましょう。 大脳皮質局所の伝達速度は細い軸索側枝(無髄)のため非常に遅く、単シナプス性 でも2〜5 msかかってしまいます。皮質内回路の複雑さを考えるとその中で処理が進 行するには10〜100 msのオーダーであろうと考えられます。長距離の皮質皮質間の 反応については、通常単シナプス性の速い反応を調べていることが多く、確かにその レベルでは1.2〜3 msの速い結合がほとんどです。しかし、ゆっくりした大きく複雑 な反応が後から加わっていることが多く、こちらは解析しにくいのでなかなか研究対 象になっていません。area 2からarea 4へのシナプス反応の例としては(自分の例で なんですが)、Kaneko et al. J Comp Neurol 345:161-17 1, 1994 などを参考にし ていただいたらと思います。 一方、視床皮質投射にツいては2〜5 ms、皮質視床投射については2〜10 msと、皮質 内処理に充分ついていけるスピードです。皮質線条体投射は上記の結合に比べるとか なりゆっくりしていることがわかっていまして、単シナプス性に10 〜 20 ms はかか るようです。(例えば、Wilson et al., Brain Research 270:197-208, 1 983) 今はやりのγレンジのスピードで皮質内情報処理が進行しているとしますと、40Hz ということは25ms/cの速さですから、私の伝えたかったメッセージ「皮質は皮質下神 経核を統合して情報処理を遂行している。皮質下神経核は、決して、皮質内処理と距 離を置いた入出力装置ではない。」については問題ないと考えています。