タイトル: 視覚における脳内表現 講  師: 小松英彦 所属 1)岡崎国立共同研究機構生理学研究所、2)総合研究大学院大学生命科学研究科 レポーター: 井上真紀・小林祐喜 1. はじめに   ニューロンの活動をスパイク頻度を指標としてモニターし、単一ニューロンや皮質のある部位がどの ような視覚情報処理に関わっているかを調べる研究が数多く行われてきました。その結果視覚神経系は 並列階層的に構成された多くの領野から成り立っており、低次の領野から高次の領野に向かうに従い受 容野が拡大すると共に、ローカルな特徴からよりグローバルな視覚パターンの検出が行われるという概 念が成立してきました。このような概念は70年代、80年代に行われた非常に多くの実験的な研究にも とづくものであり、その内容について正しく理解した上ではじめて何が足りないのかが明らかになると 思われます。本当に新しいことを発見するためにはこれまでの研究の歴史とその上に成り立つ現状の分 析が不可欠であると思います。この講義で強調したいのはまず並列階層的な視覚情報処理という概念の 基礎となる実験事実です。これまでの視覚皮質の構成についての研究を振り返り、そこから今何が問題 になっているかを浮かび上がらせるための思考の断片をある程度道筋がつくように並べていきたいと思 います。また、講義の後の方3分の1くらいで、受容野概念の変容とそれに関係する低次の視覚野と高 次の視覚野の相互作用という最近話題になっている問題について解説したいと思います。 2. これまでの研究 並列階層的な視覚系の概念の成立に関わるいくつかのポイントを列挙し解説していきます。 a)大脳皮質で視覚に主に関係する領域は数多くの領野にわけることができる。領野分けの手掛かりとなる のは視野再現、ニューロンの応答特性、線維連絡などである。視野再現とは領野内での場所がかわると、 受容野の場所が視野の上で規則的に変化し、領野全体で例えば半視野の地図が存在することを指す。  例えばサルの大脳皮質では視覚に関係すると考えられている部分は大脳皮質の約半分くらいの面積を 占めています。Fellemanら(1991)によると30個くらいの視覚領野が区別されています。彼らは、80 年代に色々な研究室で行われた研究をまとめて図にしています(図1)。この地図がどの様にしてでき てきたかというと、一つは視野の地図からです。片側の皮質は反対側の視野を表現しています。大脳皮 質の外側面の後部に月状溝(lunate sulcus)という大きな溝と下後頭溝(inferior occipital sulcus) という溝があります。月状溝の後ろの大部分の領域を第一次視覚野(V1)が占めています。V1の前方 の境界は月状溝のすぐ後にあり、この部分は視野の垂直子午線(vertical meridian)を表現しています。 V1の中央部に視野の水平赤道(horizontal meridian)が表現されています。前方の部分に中心視野を 表現している場所があり、そこから遠ざかっていくと次第に視野の上でも中心から外れていきます。こ のようなトポグラフィカルな地図がV1以外にも大脳皮質の上に存在します(Gattass et.al. 1981; Gattass et.al. 1988)(図2)。皮質上でつながったある領域が一つの半視野を表現していることが、領 野を決める基準の一つになります。V1の垂直子午線を前方に超えると別の領野、V2になります。V2の 場合は後方の境界は垂直子午線で前方の境界は水平赤道になっています。V2の視野地図はV1と構造が 違っており、上視野と下視野が不連続に分離しています。しかしこの場合でも局所的に見ると視野が連 続的に現れているという意味では視野の写像が存在している訳です。V2の前方の境界をこえると別の領 野V3になります。V3の前方の境界は垂直子午線です。V3の前方にはさらにV3A、V4、MT(V5 ともよばれる)などの領域がひろがっています。  前方に進むに従い視野再現は不規則で不明瞭になります。たとえばV4くらいになるとかなり地図があ やしくなってきます。同じ視野を表現している場所が繰り返して現れてくるなどの不規則性がV4にはか なり存在し、研究者によってはV4に相当する場所には視野地図が二つ存在すると主張する人もいます。 V3の場合も下視野と上視野が離れていますが、これを一つの領野と見る立場と二つの別の領野とみなし て名前を分ける立場があります。MTは比較的はっきりした視野再現を持っています。  このような視野の地図は、大脳皮質に電極を少しずつ場所を変えて刺していって、丹念に受容野を決 める作業を行って得られます(図3)。視覚皮質の領野分けはこのような方法以外に、後述する解剖学 的な結合パターンや、どのような刺激に選択的に反応するか、すなわちどのような視覚情報を表現して いるかといったことも基準に用いられます。 b)視覚領野は他の領野と結合している。結合(線維連絡)にはそれがどの層の細胞からのびる軸索か、 また軸索が他の領野のどの層に終わるかについて見るとはっきりしたいくつかのパターンがある。 その パターンにもとづいて前向き(低次から高次へ)、後ろ向き(高次から低次へ)、横向きの投射が 区別 され、数多くの領野を階層にならべることができる。  上述のように分けられた領野の関係は階層的に並べることができます。階層性の大きな根拠になって いるのが、解剖学的な結合パターンです。ある領野から別の領野への結合関係を見るといくつかのパタ ーンに整理できます(Felleman and van Essen 1991) (図4)。大脳皮質は一次運動野などの特殊な場 合を除いて6層構造を持っています。領野間の結合パターンの一つは起始細胞の細胞体が2-3層を中心 として(一部は5-6層にも)存在し、軸策終末が他の領野の4層に終わるというパターンです。もう一 つのパターンは2-3層や特に5-6層に細胞体があり、他の領野の4層を避けて1層または深部の5-6層 に終末が終わるというパターンです。皮質の最後方に存在するV1が、皮質で網膜からの入力を最初に 受ける場所なので、そちらを低次と考えると、低次から始まって前方のほうに行くパターンには前者の 結合パターンが多くみられます。従ってこれを上行性(前向き)投射パターンとよびます。後者の結合 パターンを下行性(後向き)パターンとよびます。V2あるいはV1(V1は少し特殊ですが)などから MTへの投射は上行性パターンであり、MTからV2にもどってくる場合は下行性パターンです。ほとん どの領野間の結合は双方向性で片方が上行性なら片方は下行性になることが一般的です。このようなパ ターンにもとづいて領野を順番に矛盾なく階層的に並べていくことができます。これら以外の結合パタ ーンとして、終末が全層に終わるパターンが見られる場合があります。このパターンは同じ領野内での 結合の中によく見出されるので、領野間の結合にこのパターンが見られる場合、それぞれの領野が同じ 階層に属すると解釈できます。このようなパターンを側方結合とよびます。Fellemannたち(1991)の 図に示された階層的な結合関係は、このようなパターン分けをもとにして得られたものです。  このような多くの領野の結合をながめると大きく二つの流れからできていることが分かります。 Fellemanらの図では複雑過ぎて簡単に見て取ることはできないので、少し古い図でまだ領野の数がそん なに多く区別されていなかったころのもの(Ungerleider and Desimone 1986)を示します(図5)。前 述のパターンに基づいて解剖学的結合関係を階層的に並べると、大脳皮質上の視覚情報の流れが下側頭 皮質(TE)に向かう経路と下頭頂小葉(PG)に向かう経路の2つの経路にわかれることが分かります。 c) 高次視覚連合野の頭頂連合野と下側頭連合野には破壊実験で違う機能の障害が見られる。また視覚領 野の結合関係を見ると頭頂連合野に向かう経路と、下側頭連合野に向かう経路に分かれるように見 える。  解剖学的に整理した2つの経路が異なる視覚機能と結びついているのではないかと言い出したのが Mishkinらのグループ(1983)です。彼らはTEとPGを破壊した時に現れる症状が全く異なるという 事実と、解剖学の知見を結び付けて、two cortical systemという概念を提出しました(図6)。TEを 両側に破壊すると物体の弁別の障害が起こり、例えば縞模様の三角柱とチェックパターンの直方体の区 別ができくなります。PGにあたる頭頂葉を傷害すると、物体の弁別はできるのですが相対的な位置関係 がわからなくなります。このような実験では、左右二つのカードの一方の下に餌が隠されていて、餌の あるほうのカードをずらすとその餌が手に入るというタスクを行い物体や位置の手掛かりで正しいカー ドを示すようにします。例えば物体の弁別の場合は別々の物体をカードの側に置いておき、常に一方の 物体の側のカードを選ぶと餌が手にはいるようにします。一方位置の弁別では、一つの物体を用い、物 体に近いほうのカードをずらすと餌が手にはいるようにします。TEの破壊で前者のタスクができなくな り、PGの破壊で後者のタスクができなくなったということです。このように解剖学的に異なる経路に機 能的にも違いがあることになります。こうして皮質上での情報処理の並列性という概念が出てきた訳で す。 d)網膜から一次視覚野(V1)までの視覚経路にははっきりした並列性がある。皮質の上での視覚経路の 並列性はV1までの並列性が単純に延長したものではない。しかし関係はある。   並列性というのは大脳皮質で始まるわけではなく皮質下、網膜レベルですでに始まっています。視細 胞には錐体と桿体という二種類の光受容細胞がありますが、桿体は主に暗いところで働く受容器で、明 るいところではもっぱら錐体が働いており、これも一つの並列性です。錐体に関して述べると、人の場 合には正常では分光感度特性の違う3種類の錐体(L錐体、M錐体、S錐体)があります。すべての情 報は光受容器の段階ではこの3種類の錐体の活動で表現されていて、動きも色も形もテクスチュアも全 て錐体の活動パターンとして表現されています。錐体以降の段階では、隣り合った錐体の信号や離れた 場所の錐体の情報をいかに組み合わせていくかということで視覚情報の処理が行われます。その時の錐 体信号の組み合わせ方で網膜の双極細胞や神経節細胞の段階で大きな違いが出てきます。どの細胞にも 異なる種類の錐体からの信号が入ってくるということでは同じです。ある種類の神経節細胞あるいは双 極細胞にはすべての錐体からの信号が同じ符号で入ってきます。つまり、錐体の種類を区別しないよう な形で信号が入ってくるのです。このような神経節細胞からの出力は、外側膝状体(LGN)の大細胞層 (magnocellular layer)という場所を通ってV1に向かいます(図7)。もう一つの神経節細胞の種類 は、錐体の種類を区別してその差分を取る形で信号を受け取り、その結果として色の区別ができるもの です。色の情報はもっぱらこの種の神経節細胞によって伝えられ、LGNの小細胞層と最近明らかにされ ているところでは顆粒細胞層(koniocellular layer)という場所で中継されてV1に向かいます。まと めると網膜からV1までの視覚経路には並列性があり、少なくとも二つの経路から構成されています。 一つはLGNの大細胞層で中継される大細胞系、もう一つはLGNの小細胞層で中継される小細胞系です。 Q1:L、M、S錐体を区別するとは具体的にはどういうことか。 小松: L、M、Sの足し算や引き算をするかしないかということです。LとMの足し算はほぼ輝度を表す 信号になります。一方、LとMの差分(L-M)で赤と緑に相反的に応答をする赤緑色対立型細胞(r/g cell) の出力になります。LとMの和とSの差分(L+M−S)で青と黄に相反的な応答をする黄-青色対立型細 胞(y/g cell)の出力になります。このように違う波長領域で相反的な応答を示さないと色の区別ができ ません。 Q2: 桿体は? 小松:桿体については色の場合にはほとんど問題になりません。入力に関していうと桿体からの信号は 大細胞層には明らかに入っているし、小細胞層にも入っていることが示されています。  大細胞系と小細胞系は、さらに色だけではなく、空間的時間的性質が異なっています。大細胞系の細 胞の受容野は大きく、低い空間周波数のパターンによく反応し空間的解像度はよくありません。しかし 時間的解像度はよく、高い時間周波数のフリッカーによく反応し、また低い輝度コントラストの刺激に も反応します。一方、小細胞系の細胞は受容野が小さくて、空間的解像度は高いのですが時間的解像度 やコントラスト感度はそれほど高くありません。  Schillerら(1990a)は、大細胞系をB-B(broad band)チャンネル、小細胞系をC-O(color opponent) チャンネルとよんでいますが、二つのチャンネルが相補的な機能をもつと考えています(図8)。すな わち、いずれも、空間的な変化と時間的な変化の情報を伝えるのですが、C-Oチャンネルは空間的な情 報の伝達にすぐれており、B-Bチャンネルは時間的な情報の伝達に関してすぐれているということです。 ただし、色の情報に関してはC-Oチャンネルのみで伝えられます。このような機能の違いは破壊実験で も確かめられています(Schiller et.al. 1990b) (図9)。LGNの小細胞層、大細胞層のそれぞれに選択 的な破壊を薬物注入により行い、対応する視野の中でどういう機能が障害されたかをみます。すると、 色の弁別に関しては小細胞層を破壊すると非常に成績が悪くなるのですが、大細胞層破壊は影響しませ ん。一方、時間的変化の情報が重要な役割を果たす動きの弁別についてみると、大細胞層を破壊すると 障害されるのですが小細胞層破壊ではほとんど影響が見られません。形やテクスチアについては、細か いパターンのテクスチアの形の弁別は小細胞層破壊で障害されますが大細胞層破壊では影響がありませ ん。一方、より粗い形の弁別の場合は、どちらを破壊しても影響がなく、どちらの系でも情報が伝えら れると考えられます。両眼立体視については高空間周波数の場合には小細胞層破壊で影響がでます。大 細胞系が立体視にもっぱら関係するという説をとなえた研究者もあったのですが、実はそういうわけで はなく、どういう種類の刺激で立体視を行うかにより異なっているということです。 ここで述べたことは、大脳皮質以前の段階ですでに並列性があるということです。先に述べたように 大脳皮質の上にも並列性が存在するのですが、皮質下と皮質上での並列性は密接な関係はあるものの同 じではありません。皮質下の並列な二つの経路がV1で終わる層は違っています。LGN細胞からの軸索 は主にV1の4層に終わりますが、大細胞層からの入力は4Cα層に入り、小細胞層からの入力は4Cβ 層に入ります。Maunsellたちのグループの実験(1994)では、LGNの小細胞層からV1の4Cβ層に入 ってきた情報はV1の中でブロブ、インターブロブとよばれる場所を通って伝えられ、その情報は大脳皮 質の下側頭葉のほうへもっぱら流れていきます。一方、LGNの大細胞層からV1の4Cα層に入ってきた 情報は、V1の4B層を通ってMT野や頭頂連合野のほうへ流れていくと同時にブロッブを通って下側頭 葉の方へも流れていきます(図10)。従って 皮質下での並列性がずっと保たれるわけではなく、皮 質の上で大細胞系の情報と小細胞層の情報の収束が起きると考えられます。 e )視覚領野のニューロンの多くは何らかの視覚属性に選択性を示す。すなわち、刺激の他のパラメータ を固定してあるパラメータ(例えば線分の向き、運動方向など)を変化させた時にニューロンの応答(ス パイク頻度)が有意に変化する。このようなテストができるのは刺激のパラメータが張る空間が明瞭に 定義できる属性ということになる。  視覚野のニューロンは、いろいろな刺激に選択性を持っています。どのような刺激に選択性をもつか は皮質の場所によって異なり、これも領野分けの基準の一つとなります。一つの例として、Maunsellた ち(1983)がMTの細胞で運動方向選択性を調べた実験を示します(図11)。これは、MTの一つの 細胞の受容野です。この受容野の上をスリットをいろいろな方向に動かした時のスパイク発射が示され ています。ある方向に動かすとスパイクの頻度が大きく増加し、反対方向に動かすとむしろ減少します。 こうしたニューロンの活動はスリットの動きの方向を区別しており、スパイクの発射頻度という形で動 きの方向についての情報をもっているということができます。   同じように様々な種類の刺激に対する選択性を調べる実験が色々な皮質の領野で行われています。次 の例は色と形に対する選択性を下側頭皮質(IT)で調べた私たちの実験です。色はL、M、Sという三種 類の錐体がもとになっているので3次元空間で表されます。この3次元の一つの軸である輝度を固定し て色味だけについて考えると2次元で表すことができます。この実験ではそのように色を2次元で表す 色度図を用い、これを均等に分割するような刺激を使ってそれらに対するニューロン応答を調べて色選 択性を求めています(図12)。形と輝度は一定に保ち、変化しているのは色だけという刺激をサルの 視野の同じ場所に出します。この図に見られるようにITにはある色にはよく反応するが、別の色には反 応しないという色選択性をもつニューロンがあることがわかります。この実験ではまた、形に関する選 択性も調べています(図13)。色は同じで面積も同じになるようにそろえた刺激を用いていますが、 形についてはarbitraryに選んでいます。形によって反応が異なるので、形に対して選択性があることは 分かるのですが、形をどのように表現しているといえるのかはよくわかりません。それは形をどのよう に記述して表現するのが適当かということがよくわからないからです。そのためこの実験の刺激として は便宜的に、知覚的に容易に区別される、パターンのセット用いています。ITでの形選択性というのは 多くの場合、このようにarbitraryに選ばれた刺激のセットに対する反応を調べています。 f)上のようなテストをさまざまな領野で行うと、領野によってある属性に選択性を示すニューロンの割 り合いは異なることが見られる。そのもっとも顕著な例が色と動きである。  このようなテストを様々な領野で行うと、領野によって選択性を持つ細胞の割合が違うことがわかり ます。DeYoeら(1988)の解説では、よく調べられているいくつかの領野で、波長(WVL)、運動方 向選択性(DIR)、方位選択性(ORI)、両眼視差(DIS)の4つの属性に関して、選択性を示した細胞 の割合がどれくらいあったかをまとめています(図14)。論文によってこうした選択性の比率という のは結構変わるのですが、基本的なところでは一致している点があります。例えばV1のインターブロッ ブはORIが割合としては高いがブロッブでは低く、MTではWVLは0%で全くないがV4はWVLは50% とかなり高い。一方、DIRについてみるとMTは85%でV4は5%というように色と方向は極端に違っ ています。他の属性についてみると、色と動きほどのはっきりした違いというのは選択性からだけでは わかりません。上で述べた並列な皮質視覚経路との関連でいうと、色は下側頭葉に向かう経路で多くみ られます(図15)。これは小細胞層系のみ色の情報を伝えていて、それが皮質では側頭葉の方の経路 にだけ流れていくということに対応しています。一方運動方向の情報に関しては大細胞系が関係してお り、ここからの情報は皮質では頭頂葉と側頭葉の両方向に行くのですが、このうち頭頂葉に行く経路で 運動方向に選択性を持っている細胞が多いということです。形に関しては多分両方の経路とも情報を伝 えています。両眼視差については頭頂葉の方で主に処理されると考えられていますが、最近の研究では 下側頭葉の方でも選択性があることが報告されています。このような特徴選択性の違いも視野再現がは っきりしない部位では領野を分ける一つの基準になります。 g)受容野の大きさは高次の領野ほど大きい。しかし一つの領野の内部でも層によって受容野の大きさは かなりばらつきがある。  それぞれの領野での受容野の大きさを見ると、同じ程度の網膜偏心度ではV1よりV2、V2よりはV4 のほうが受容野が大きくなります(図16)。下側頭皮質の後部(TEO)になると受容野はさらに大き くなり、下側頭皮質の前部(TE)になると、両側の視野にまたがる広い範囲の視野を含む大きな受容野 がでてきます。これは側頭葉だけでなく、頭頂葉のMT、MSTのほうも同様です。MTニューロンの受 容野はV4と同じ位でその次のMSTではTEと同じように極端に受容野が大きくなります。このように 視覚経路に沿って段々階層を経ていくと、受容野が大きくなっていくという明らかな傾向があります。 また網膜偏心度との関係で見ると、TEやMSTのように視野再現のはっきりしない領野をのぞき、どの 領野でも偏心度が大きくなると受容野の大きさが大きくなる傾向があります。  一方ある一つの脳の場所で受容野の大きさを測ると、結構バラつきがあることが分かります。この Hubelたちの研究(1974)では、サルのV1で皮質に垂直方向に電極を刺していって記録した受容野を 重ね書きしています(図17)。V1の表面に沿って地図が配置されているわけなので、地図の一点に電 極を刺しているということになるわけですが、受容野の位置と大きさにかなりのばらつきがあることが わかります。この図には第6層の受容野は含まれていません。この図を見ると、受容野に重なりが全く ないわけではなく、ある部分を中心にして広がりがあることが分かります。受容野がカバーする視野の 領域というのは、脳のその場所が表現する空間的な大きさの単位というべきものと考えられますが、V1 の場合、このHubelらが示したような受容野の広がりが空間解像度の単位のようなものになるというこ とが考えられます。  V1は眼優位コラムや方位選択性コラムなどとよばれる構造を持っていますが、皮質の表面に平行に電 極をすすめていくと、少し電極を進めると受容野の場所は変わらないが違う方位あるいは違う眼からの 刺激に反応するようになります。数100ミクロン電極を進めると受容野の場所がジャンプして違う所に 移って、またそこで同じようなことが繰り返されます。こうしたある範囲の視野をコードしてそこに含 まれるあらゆる方位や左右の眼からの情報をパックした単位がハイパーコラムと呼ばれる構造です。ま た、6層も含めてV1の受容野を調べた研究では、6層で非常に大きな受容野があることがわかります (Gilbert 1977) (図18)。 h)単純な刺激にはあまり応答せず複雑な刺激パターンによく応答するニューロンが高次領野に見い出さ れる。 もう一つの重要なことは、皮質の低次な段階のニューロンの受容野は小さくてローカルな特徴を検出し ているが、高次の段階のニューロンの受容野は大きく、その中にあらわれたグローバルな特徴を検出す るようになり複雑なパターン選択性を持つニューロンが現れてくるということです。そうした考えの端 緒になったのはGrossらの1972年の論文ですが、この論文によると下側頭皮質の細胞が、テストし た色々な刺激のどれにも反応しないので手をふってバイバイしたらそれに反応したということが書いて あります。その細胞は丸などの単純な図形にはあまり反応せず、手のパターンに非常によく反応したと いうことです(図19)。80年代になって他のいくつかのグループによってそのようなことが確かめら れて、下側頭皮質のニューロンが様々な複雑なパターン選択性を持っていることがわかってきました。 同じようなことは頭頂葉の経路でもあり、MTの細胞は受容野が限局していて一つの方向に動く単純な刺 激に反応するのに対し、その次のMSTの細胞は受容野が非常に大きくなって複雑なオプティカルフロー パターンに反応する細胞が出てきます(図20)。それらの中には広い受容野の中で一様な方向に刺激 が動く時に反応する細胞や回転パターンに反応するもの、あるいは前進や後退に伴って生じるようなオ プティカルフローのパターンに反応する細胞もあります。また単一のオプティカルフローのパターンに 反応するだけでなく、いろいろなパターンの組み合わせに対して反応するものもMSTには見られます(図 21)。 i) ある属性に選択性をもつニューロンが多い領野はその属性の処理に強く関係していることが推測され る。ある領野を破壊したり微小電気刺激を加えて特定の属性の視覚刺激を利用する行動の変容を見る実 験の結果は、そのような推測と矛盾しない。  今の話では、脳のある領域がどのような情報の処理に関係しているかということをニューロンの選択 性の側面から見てきました。そうするとMT野は動きの情報を持っていて、動きの知覚に関係している ということが当然考えられます。しかし本当にそうであるかどうかを言うためには、より精密にニュー ロン活動と知覚の対応関係を調べたり、その場所を破壊してどういうことが起こるかということを見る 必要があります。Newsomeたち(1988)がこれに関するすぐれた実験を行っているので、少し詳しく説 明します。彼等が用いたのはランダムドットの動きの方向の識別です(図22)。すべてのドットが同 じ方向に動いているというのが100% correlationの刺激で、この場合にはもちろんドットがどちらに 動いているかははっきりわかります。これにでたらめな方向に動いているドットをノイズとして加えて いきます。50%のドットがでたらめな方向に動いている刺激を50% correlationとよぶことにします。 ノイズの割り合いをあげていくと、一様方向に動くドットがどっち向きに動いているかがだんだん見え なくなっていきます。すべてノイズ、つまり0% correlationにすると、全くでたらめに動いていてど の方向も見えないということになり、ある時にはある方向に見えると答えるかもしれないが次の時には 別の方向に動いていると答えるようになります。このようにcorrelationの程度を変えて、一様方向への 動きの検出の確率がどうなるかを調べます。サルでこれを調べるには次のようにやります(図23)。 サルが注視点を見ていると、今のようなランダムドット刺激が視野にあらわれます。さらに二つの光点 がランダムドットの両側にでます。一つの光点は一様なドットの動き(シグナル)の側、もう一つの光 点はその反対側です。サルはシグナルのドットがどちらの方向に動いていたかを判断してその方向の光 点にサッケードすると報酬を得ることができます。そしてシグナルとノイズの割り合いを変化させて、 正答率を調べる訳です。このようにして得た正答率のカーブを心理測定関数といいます。このような時 の行動を見ると、シグモイド曲線になっていて10%ぐらいシグナルがあればかなりの正答率で検出がで きます。これは個体全体としての判断を行動でみたものですが、ひとつひとつのMTニューロンの反応 はどうなっているかということは次のようにして調べられます。刺激とタスクは今と全く同じです。た だし刺激のランダムドットは、MTニューロンの受容野に重なるように出し、シグナルの方向がニューロ ンの反応する方向と同じになるようにします。例えば上方向に選択性を持っているニューロンであれば、 上方向をシグナルにして、刺激のあるcorrelationレベルで試行毎にどれだけ発火したかを求めその分布 をプロットします(図24)。同様にシグナルを逆転して反対方向にした場合のスパイク数の分布も別 にプロットすると、例えば12.8% correlationの刺激に対する反応の分布は上方向では70発から80発 くらいでます。反対方向だと20-30発になり、スパイク数の分布はほとんど重なっていません。だから このニューロンの活動は12.8%のcorrelationレベルだと上方向と下方向の刺激をほぼ完全に区別するこ とができることになります。ノイズの割合が増えると、上方向と下方向の発火の分布がオーバーラップ してきてニューロンの発火頻度を元にして刺激が上か下かを答えるのは困難になってきます。これにROC (receivier operating characteristics)という定量的な解析を行い、ニューロンの反応からみた信号方 向の検出割合をあらわす曲線を書くことができます。これを神経測定関数(neurometric function)と呼 びます。神経測定関数はニューロン毎に一つの曲線が書けるわけですが、これからそのニューロンのシ グナル検出の閾値を、たとえば検出確率が0.75になるcorrelationとして求めることができます。同時 に記録された神経測定関数と先ほどの心理測定関数の比較を行います(図25)。すると神経測定関数 と心理測定関数は閾値や傾きもよく一致します。もちろんニューロンによって違いがあり、行動でのパ フォーマンスの方がニューロンの刺激の検出より良い場合と逆の場合があります。しかしMTの運動方 向選択性ニューロン全体の分布をみるとサルのパフォーマンスとニューロンの反応は非常によく一致し ています。このように発火頻度でみたMTニューロンの活動はサルの行動を非常によく予測することが できます。  次に、MT野のニューロン活動が動きの知覚と因果関係を持つことを示すために、MT野の一部にイボ テン酸を注入してニューロンを破壊した時に、行動にどのような変化があらわれるかを調べる実験が行 われています(Newsome and Pare 1988) (図26)。あらかじめ注入する部位のニューロンの受容野 を調べ、それに対応する視野の場所に刺激を出します。実験パラダイムは上述のものと同じで、破壊の 前後でランダムドットに含まれるシグナルの検出の閾値の変化を調べています。すると、最も検出しや すいドット間隔の刺激を用いた時に破壊後は閾値が破壊前に比べて10倍に上昇します。反対側の正常な 視野で実験を行うとパフォーマンスは破壊前後で全然変わりません。従って破壊を行った側の視野に限 局した障害であるといえます。同時に静止したgratingの検出のコントラストの閾値も調べていますが、 わずかに閾値が上がるものの、ランダムドットの動きのような劇的な変化は生じません。運動に選択的 でかつ視野の限局した場所の障害が起きているということです。この破壊実験では、この障害は1−2 日しかもたないで回復してしいます。そのメカニズムはよくわかっていませんが、MTやMSTを含む領 野を大きく破壊してしまうと障害が長く続くという実験もあります。だからMT、MST内部とその近傍 の破壊した部分の周囲で代償が行われているものと考えられます。 Q1:どういう傷害ですか?細胞体は壊れているのか?永久に使えなくなっているのか? 小松:細胞体は壊れているので使えなくなります。 Q2: 反応を表す方法は色々あるだろうに、このやり方で心理測定関数と神経測定関数が傾きまであって いるのはなぜか? 小松:これは二つのカーブのパターン全体があえば閾値もスロープもあいます。ただし個別のニューロ ンで見ると前に述べたようにいろいろあるが、ニューロン全体で平均してみるとよくあっているという ことです。  さらに破壊とは逆に、微小な電気刺激を与えて、ニューロン活動を上昇させた時の行動への影響をみ るという実験も行われています(図27)。これは上と同じパラダイムを用いて、10μAという微小電 気刺激を与えてMT野の運動方向に関するコラム内のニューロン集団を刺激すると、もしこれらのニュ ーロンが動きの知覚と関係しているなら、電気刺激によって刺激した場所で表されている方向への動き の知覚が生じやすくなり、その方向の動きの検出がよくなるのではないかという予想のもとに行われた 実験です。 (Salzman et.al. 1992)。例えば左方向に反応するコラムを電気刺激した時に左方向のシグナ ルが増大したのと同じ効果になれば、心理測定関数が左方向にシフトすることが予想されますが、実際 にその通りになったわけです(図28)。このような研究は、発火頻度コードから予測されていたある 領野とある視覚機能の因果関係が、実際にニューロン活動を人工的に修飾した時に現れる行動の変容か ら示された実験ということができます。 Q:刺激強度との関係は? 小松:この場合、刺激強度と関係があり、大きい電気刺激だと曲線は寝てきます。これは周りも刺激し てしまってノイズになるからと思われます。微小刺激というのが大事です。 3. 最近の研究 それでは上のように積み上げられてきた並列階層的な視覚系の枠組みで未解決な問題は何か?そしてそ のような枠組みから取り残されている大事な問題は何か?について述べたいと思います。 a)情報の変換の問題。低次の領野(例えばV1)でローカルで単純な特徴によく反応し、高次の領域(例 えば下側頭連合野(IT))では複雑なパターンによく反応する。それではその中間でどのような過程を 経て、高次領野のパターン選択性が生じるのか。これはV1以前の同心円型受容野からどのようにV1 の方位選択性をもつ単純型細胞や複雑型細胞が生じるかという30年間続いている問題と共通したテー マである。   V1で視野の局所で、輪郭の方位の情報がとり出され、その後ITで広い視野にまたがる複雑なパター ンの情報がとり出されます。しかし、中間段階で何がおきているのかはよくわかっていません。あるい はMTで比較的限局した視野領域の一様な方向の動きが検出されて、その次のMSTの細胞は大きな受容 野を持っていて複雑なオプティカルフローに選択性を持っています。しかし、MTとMSTの間でどのよ うなメカニズムが働いてそのようなことができるのか、ということは何もわかっていません。60年代は じめにHubelとWieselがV1ニューロンの方位選択性を発見してそれがどういうメカニズムでできるの かについてのモデルを提案しました。その後延々30年間この問題が研究されてきてやっと光が見えてき た所で、これまでに様々なことが言われてきたけれども、それがある方向に収束してきつつあるところ です。そうした単純に見える問題でもそれだけ時間がかかるのですから、皮質上の複雑な選択性の形成 の問題も我々が生きているうちに少し光が見えることを期待したいと思います。HubelとWieselのオリ ジナルのモデルでは、一方向に並んだ同心円状の受容野を持つLGNの細胞からの入力がV1の一つの細 胞に収束して単純型細胞が生じると考えています。皮質内での抑制が単純型細胞の応答の形成に重要で あることを示す実験とか、今までいろいろ言われてきた訳ですが、基本的にはこのHubelとWieselの スキームは真実の一側面をとらえているといえます。最近Reid と Alonso(1996)が行った相互相関 (cross correlation)を使った実験で、皮質とLGNから同時に活動を記録してそれらの相互相関をと って、受容野が実際にどのようになっているか調べたら、このスキームに一致するようにLGNの受容野 が一列にならんでいました(図29)。またこれとは別に、V1ニューロンの細胞内記録でシナプス電位 を調べた実験で、皮質の活動を抑制したときにも、LGNからの入力を表すと考えられるシナプス電位が 方位選択性を失っていなかったこともHubelとWieselのモデルに一致します。こうした地道な実験の 積み重ねが皮質の研究でも重要であると考えられます。   b)情報の表現の問題。非常に単純な限定された刺激のある視覚属性に関しては、ニューロンの選択性か らその属性がどのように表現されているかを理解することはできる。しかしこのような選択性は通常他 の属性を固定した単一の刺激を受容野に呈示して得られたものである。複雑な刺激が視野に存在する自 然な条件下で、これらのニューロンがどのように応答するかは実験的にもほとんど手がつけられていな い問題である。 c)情報の表現の問題。単純なパラメータで表すことが困難な属性に関しては、選択性を調べる事があま り行われていない。 d)b)に関係する一つの問題は、単純な刺激を用いて行われた実験においても、一つのニューロンがさ まざまな刺激の属性に対して選択性をもつことが示されていることである。従ってあるニューロンの活 動が変化した時、それがどのような刺激の属性の変化によって生じたのかはあいまいである。そのよう なあいまい性をもつニューロンから成り立つ神経回路は、どうやってある属性の情報をうまく取り出し ているのだろう。 b)−d)は時間がないのでとばします。 e)受容野の概念の変容 e)-1 b)の問題を考える上でも重要な実験事実として、視覚野のニューロンの活動が受容野から離れた 場所の刺激の影響を受けるということがある。ここでいう受容野はニューロンが良く反応する小さな丸 や四角の刺激あるいは正弦波格子を用いて、ニューロンが反応する視野の範囲として求められたものを 指す。このように求められた受容野を古典的受容野とよぶ。 e)-2 周辺刺激のもつどのような特性が古典的受容野内の刺激に影響を与えるのかという問題がある。 周辺刺激のある特性によって系統的に影響が生じるとすれば、例えばV1のようにローカルな情報しか 持たないと思われていた場所に、グローバルな情報がもたらされており、その影響をうけてV1ニュー ロンの活動が変化していることを意味する。そのような事を示唆する実験結果がある。このような周辺 刺激のもつ情報によると考えられる初期視覚野の活動の変容は文脈依存的修飾とよばれる。文脈依存的 修飾がどのような要因で引き起こされているかについては十分な検証が必要である。 受容野の概念が最近非常に変わりつつあります。次にそのことをお話ししたいと思います。  b)の問題の複雑で自然な情景の中で視覚系がどういう処理を行っているかということを考える上でも 重要なこととして、受容野が初期の段階で局所的な処理だけ行っているのか、あるいはもっとグローバ ルな情報を持っているのかということが問題になってきています。それを考える上で重要なことは、受 容野の刺激への反応に、受容野の周辺から色々な影響が及んでいるということです。このような現象は 最近、文脈依存的修飾という言葉でよばれています。受容野の周辺からの影響があるということは、以 前から知られており、例えば1985年のAllmanの総説(1985)に示されている実験では、右方向の動 きによく反応するMT野の細胞で、受容野内の刺激を右向きに動かしておき、周りの刺激をいろんな方 向に動かして影響を調べると、周辺を右向きに動かしたときに元の応答レベルと比べると非常に抑制さ れるということがおきます(図30)。つまり、周辺にRF内と同じような刺激があると抑制が生じると いうことです。周辺の刺激を反対向きに動かすとそうしたことは起こらず、むしろ促通が生じることも あります。そういうことがこれまでに色々知られていたわけです。つまり、周辺との対比が重要である ということです。  最近話題の文脈依存的修飾がこのような現象と本質的に何が違うかということは、これから色々な研 究がなされないと多分結論が出ないと思います。周辺からの影響がどのような情報をもとにしておきて いるかということをもっと詳しく調べる必要があります。これはV1で文脈依存的修飾を示した研究とし てよく知られているZipserとLammeの論文(1996)です(図31)。この実験ではV1の受容野の内部 の刺激は同じですが、受容野が図の中にある場合と背景の中にうずもれている場合とでは反応が違うと いうことが示されています。これが彼らの言っている文脈依存的修飾です。図というのは、例えば多く の短い線分からなるテクスチャの刺激で、周りは皆線分が同じ方向を向いているが、それと直交方向の 線分からなる刺激が中心付近にあって、それが図として浮き上がって見えるということです。背景でも 細胞の反応は生じるが、図の中に受容野がある場合には最初の反応の立ち上がりからある程度時間が遅 れて反応が増えます。さらにそれが単純な周辺とのコントラストではないだろうと彼らが言っている一 つの根拠は、図の境界での反応の非対称性で、受容野が図からはずれて地に入ったとたんに反応が急に 低下します(図32)。一方、図に入ったとたんに急に反応が増加します。つまり図と地の境界線をか なりはっきり区別して処理を行っているということです。そのような図地による活動の修飾がおきる空 間的な広がりについて調べると、図の大きさを大きくしていくと次第に修飾は弱くなっていくが、10度 くらいの図の大きさまで修飾がおきています(図33)。10度というのはV1の受容野からするともの すごく大きい視野の範囲です。時間的な側面については、V1のニューロンの活動の始まりから、数10 ミリ秒遅れて文脈依存的修飾による図と地の反応の違いが始まると言っています。  もう一つ彼らが言っているのは、麻酔下ではこのような活動の修飾はみられないということです (Lamme et.al. 1998) (図34)。また、V2やV4を含む視覚前野の広い範囲を破壊すると修飾が見ら れなくなることも報告しています。これは高次の領野のもつグローバルな情報が低次のV1に返ってきて、 そこでの活動に影響を与えていることを示していると解釈されています。 f)視野の上で視覚特徴は離散的にしか検出されない。その間の視野の場所では特徴を補間したように知 覚が生じる。この端的な表われが主観的輪郭や充填(filling-in)と呼ばれる知覚現象である。視野に対 応する地図をもつ視覚皮質でも情報の補間は生じるのだろうか。  上で、V1で受容野外の刺激によってニューロンの活動に影響が生じる例として、文脈依存的修飾とよ ばれる現象があるということを話しました。同じような文脈で考えることができる別の現象があります。 それは視野内で情報が存在しない場所に、周辺に存在する刺激の影響で知覚的に補完が生じる時に、皮 質の視野マップの上でもそれに対応した活動が見られるという例です。von der HeydtとPeterhans (1991)の実験では主観的輪郭を用いています(図35)。これは、例えば途切れた線分が向かい合っ て存在しているとき、その間にあたかも実際に輪郭が存在するかのように見える現象で、この輪郭のこ とを主観的輪郭とよびます。このような主観的輪郭を見せた時に情報が与えられていない視野の部分を 表現している皮質で活動が起こります。実輪郭を与えたときに受容野で反応が起こるのですが、それと 同じ方位の主観的輪郭が受容野を横切るように刺激を出すと弱いが活動が起こっています。つまり受容 野の周辺に出された刺激の配列によって活動がおこっているという意味で、上に述べた文脈依存的修飾 と同じような枠組みで考えることができるのではないかということです。このような主観的輪郭に対す る活動はV2野でみられます。視野に情報がない場所にもあたかも情報が補完されたかのように知覚され る現象は様々な条件でおこり、例えば視野の盲点の充填はその例です。この場合には盲点にあたる視野 を表現しているV1の場所で活動がおきています(図36)。 g)e、fと関係のある問題であるが、視野の離れた場所で検出された特徴が同じ起原(物体など)に由来 するのか違うのかを区別することは、シーンを分析する上で重要だろう。高次領野で見られる複雑な選 択性を形成する上でも、同じ起原に由来する特徴同士をつなぎ合わせなければいけない。初期視覚野で このような視野上で空間的な情報の結び付け(統合)はどのように行われるのだろう。 h)また並列階層的な構成をもつ視覚経路で別々の場所で取り出された情報(例えば色と動き)を組み合 わすのはどのようにして行われるのだろう。  頭頂連合野は空間的な情報の処理に関わっていて、下側頭皮質は物体の情報の処理に関わっていると いうことを述べたのですが,そうすると位置の情報と物体の情報を統合して、ある場所にある物体があ るということを認知する仕組みはどのようになっているのだろうか、ということが問題になってきます。 一つの可能性はそうした別々の情報が収束する場所があるのではないかということです。例えば、空間 的な情報と物体の情報に関して言えば前頭前野が情報を収束する場所の有力な候補です。前頭前野には 下側頭皮質からも頭頂連合野からも入力が収束していることが示されています。実際に位置と物体の情 報の収束がニューロンレベルでおきていることを示したのが最近のRaoとMillerら(1997)の研究です (図37)。これはobject working memoryのタスクですが,サルが注視していると、まず図形が 呈示されます。次に図形が消えて遅延が入ります。遅延期間中、図形を覚えておきます。次に最初の図 形を含む二つの図形が上下左右のどこかに出て、再び消え、二回目の遅延に入ります。最初に図形が出 てきたときにその形を覚え、二回目の遅延では最初の図形が再び出た場所を覚えておきます。最後にそ の場所にサッケードします。前頭前野のニューロンは最初の遅延期間で図形の情報に従って活動が変化 して、次の遅延期間中には図形の種類と場所の情報を組み合わせた活動変化をします。つまり最適図形 が最適位置に出たときに一番強い活動を示して、それ以外の図形や位置では活動が弱くなるというよう に図形と位置の組みあわせによって活動の変化が起きるということです。  上の例は発火頻度を指標にしてみると、図形と位置という違う種類の情報の組み合わせが表現されて いるという例ですが、これはまた少しちがうスキームとして、複数の図形特徴が視野内に現れた場合に それらが一つの物体の部分であるのか、別の物体の部分であるかということを区別するのにスパイクの タイミングが使われているということが言われています。これはSingerたちの有名な主張で、 synchronized oscillation でそれを表現しているということです(Gray et.al. 1989) (図38)。同 じ物体に属する特徴の場合にはsynchronized oscillationが起って、そうでない場合には起きないと彼 らは主張しています。そのような同期による特徴の統合を生じる上で、V1からLGNのフィードバック が重要であることを示したのがSillitoら(1994)の論文です(図39)。正常な状態ではLGNで少し 離れた二つのニューロンの活動を記録して、ひとつながりのグレーティングで刺激すると、2つの神経 活動の間にブロードなあるいはシャープなcorrelation のピークが出てきます。ところが、皮質を破壊 してV1からLGNへのフィードバックを切るとcorrelationが出なくなるというものです。V1ではLGN に比べてグローバルな情報を持つことができると考えられ、特に6層のニューロンは非常に大きな受容 野を持っていて、広い視野の範囲のグローバルも情報を持つことが出来ます。それがLGNに返ってきて 活動を修飾してスパイクの時間的なタイミングをそろえるということに関係しているのではないかと考 えることができます。同じようなことが皮質領野間の結合に関しても起こっているかも知れません。 i)gやhであげた特徴の結び付けにスパイクのタイミングや位相が関与していることを示唆する結果と これを否定する結果が報告されているが、どちらが正しいのだろう。なぜそのような矛盾が生じるのだ ろう。またもしスパイクのタイミングがそろっていることが見られたとして、それが結び付けと因果関 係をもつことをどのように証明したらよいのだろう。  視覚系で本当にtemporal coding、synchronized oscillationが特徴の統合に使われているかどうか という問題は、追試はまだ不十分で、これから時間をかけて検証していく必要があると思います。Singer たちのグループは繰り返し報告していますが、それ以外のグループによる追試はまだ不十分で、これか ら時間をかけて検証していく必要があると思います。  Singerたちの実験はobjectの輪郭の結びつけですが、1998年にLammeたちは図地分化や面の結び つけについてsychronizationがおこるかどうか調べる実験を報告しています(図40)。図は一つなが りの領域として地から区別されています。V1のニューロンは視野のある場所が図か地かという情報を文 脈依存的修飾という形でスパイク発射頻度の変化として持っているというのがLammeらの主張です。 一方、synchronizationという現象も、グローバルな情報が局所的な情報をになうスパイクのタイミン グに影響を与えるという見方にたてば、文脈依存的修飾と共通点があります。そうすると、文脈依存的 修飾がおきる時にスパイクの同期も起こるのではないかと考えたくなる訳で、これを実際に調べたのが Lammeの98年の論文ということになります。この論文に、彼は“Neural synchrony does not represent  texture segregation.”という挑戦的なタイトルをつけています。この論文で調べているのは単一ニ ューロンの活動ではなく、多くのニューロンの活動を含む活動ですが、これを調べると受容野が2つと も図に含まれるときにはcorrelationが現れます。次に片方が図に入っていて片方が地にある場合は correlationがでません。ここまでは上で書いた予測に一致しています。しかし、どちらも地に入ってい るときにも、correlationのピークが出てくるのです。彼らの予想は図というまわりから際立ったものを bindするためにsynchronizationが使われるかも知れないというものだったのですが、地でも相関が出 てきたということで予想と食い違った訳です。彼らは、この結果が単に同じ方位の線分に反応するニュ ーロン同志には相互結合があり相関がでやすいという以前から知られている事実を反映しているだけで はないかと結論しています。しかし、別の見方をすると、地の中に二つの受容野が含まれた場合も、地 という共通点では一つの領域という風に考えることも可能で、地同志でsynchronizationがおこること は領域の統合に同期が使われるという考えと必ずしも矛盾しないと思います。私は、これは灰色の結果 であってsynchronization が情報の統合に使われているかどうかというのは今後の追試が必要な重要 な問題であると思っています。 質問 Q1:網膜の錐体とLGNは中心窩の方では1対1に対応しているということだったが、それはLGNとV1 ではどういうふうに考えればいいのか? 小松:神経節細胞とLGNの間では入力のconvergenceとdivergenceは同程度で、全体としてみると 細胞数の比はほぼ1対1になっている。LGNからV1では明らかにV1で細胞数が増える。 Q1:細胞の数が処理を経るに従い増えていくのか減っていくのかということを知りたい。 小松: LGNと神経節細胞の数はほぼ同じです。視細胞と神経節細胞の間ではあきらかに細胞数が減り ます。 Q2:最後のほうの話で、同期が起こっている現象は皆知っているが、積極的に情報処理に使っているのか、 神経が皆つながっているので単に同期してしまっていて脳的には困る現象なのか?シミュレーションを 組んでいると簡単に同期してしまい、同期し始めると皆同期してしまって電位発火か振動かになってし まう。同期とはあまり起こってほしくないことのように思えるのだが。結果としてしょうがなく出てし まうものなのかどうか。 小松:それはおそらくいろんなレベルがあると思う。例えば網膜からLGNとかLGNからV1へのsimple cellの形成のレベルだと同期が非常に効率的に働くというのがReidとAllonsoらの仕事で出ている。そ の場合には同期した入力が大事であるということである。それ以上の系で同期が実際に役に立っている という証拠は視覚系に関して全くないので何とも言えない。同期はbindingの面白いメカニズムだと思 うので、実際におきているかどうかを見たいと思う。ただ、あったときにそれがどのようにして役に立 っているかということをNewsomeがやったようなエレガントな方法で調べることができるかというと、 また非常に難しい問題である。Singerたちもそれが起きているということは繰り返し言っているが、そ れがどういうふうに役に立っているかはまだ全く示していない。 Q2:図と地で発火頻度が違う時に興奮性入力が増えているのか、それとも抑制が解かれて増加しているの か。割とbroadな範囲で興奮が上がっているが。 小松:それを直接調べる実験は多分何もやられていないのでわかりません。 Q2:最初の出だしが遅くなるのはわかるが、それが持続している。例えば抑制がかかっていたのが何らか の方法で抑制がとれてその場合のそのレベルが反映されているのか断続的に興奮性入力が入っているの か? 小松:どっちでもいいような気がするが、わからない。 Q3:最後の話のタイミングとゲートの関係みたいな話で、実際にそれを測ってみた例というのはあるの か?図と地の場合にそれぞれがsynchronizeしていくスピードと活動が高まるのとはどうなっているの か?刺激を与えてからはある程度の時間がたつとsynchronizeすると言うようなことだったが。 小松:それはこの場合は確かに非常に問題で、contextual modulationが起きる所では起きるんではな いかとか、 Q3:どっちが先かということになるのだが、 小松:それは非常に面白い問題だが、この場合はどうだったか。ここだけきりだしてやってたかな? Q4:定常になった同期とcorrelationをとっていたんじゃなかったか。 小松:確かそうだったように思うが今はっきり思い出せない。多分おっしゃるようだと思うが、今正確 に答えられない。 Q5:非定常の時のcorrelationは難しい。この前、Abelesがやっていたが。 小松:関係ない図だが一つだけ出したいと思って出し忘れた図があります。それぞれの領野がどれぐら いのタイミングで活動し始めているかについてのcummulativeなカーブで、どれぐらいの割合があるタ イミングで活動し始めているかの図です(Schmolesky et.al. 1998) (図41)。刺激が70-100msecあ たりの領域というのはあらゆる領野が同時に活動しています。広い時間の範囲にわたって活動が同時に 進行している時間帯があるということです。領野の階層に従って段々処理が遅れていって活動が順番に 始まっていくということではないということです。 参考文献 1) Allman, J. M., Meizin, F. AND McGuinness, E. Stimulus specific responses from beyond the classical receptive field: Neurophysiological mechanisms for local-global comparisons in visual neurons. Annu. Rev. Neurosci. 8: 407-430, 1985. 2) Britten, K. H., Shadlen, M. N., Newsome, W. T. & Movshon, J. A. The analysis of visual motion: a comparison of neuronal and psychophysical performance. J. Neurosci. 12: 4745- 4765, 1992. 3) DeYoe, E. A. & Van Essen, D. C. Concurrent processing streams in monkey visual cortex. Trends Neurosci. 11: 219-226, 1988. 4) Duffy, C. 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