<講義録> ----総合討論: グループA---- レポーター:森本 淳 ----------------------------------------------------- タイトル:We can see the forest without seeing trees 発表者 :赤崎 孝文     加藤 聡    内藤 智之     深貝 卓也 階層的な構造になっている文字刺激(例えば ’5’ のテクスチャを持つ’3’)を呈示すると,ヒトは 要素となっている刺激の識別に,より長い呈示時間 を必要とする.一方,この現象は頭頂連合野に異常 がみられるアルツハイマー患者では生じないことが 報告されている.つまり,文字が縦横に隣り合って 並んでいることによる側抑制と考えるよりは,頭頂 連合野から視覚野への抑制が行われているのではないか と考え,以下の仮説を立てた. 入れ子構造になった刺激が呈示された場合,頭頂連合野 の働きによって形態が統合され,全体的なまとまりとして 処理される.一旦,まとまった形態として対象が認識 されると,形態を統合する回路が切れて,部分の認識 が可能になる.この仮説を検証するため,次のような 実験を設定した. Fixation pointに赤が呈示されれば,Stimulus Cue(SC) に呈示される刺激の全体的な形状に適合する図形が Matching Cue(MC)に呈示された場合Go刺激,一方, 青が呈示されると,SCに呈示される刺激の要素となっている 形状に適合する図形がMCに呈示された場合Go刺激とする. 期待される実験結果を次にあげる. ・V1とTEに電極を刺入することを考える.SC呈示期間中 のTE野ニューロンは,活動の初期においてグローバル な形状情報に選択的応答を示すが,入れ子の中の文字 には応答を示さない. ・頭頂連合野を破壊したとき,このようなニューロンは 入れ子の中の文字にも活動の初期から応答を示すようになる. ・V1の応答も同様に計測することにより,V1内の各受容野を 受け持つニューロンの刺激呈示初期における活動と一定期間後 の活動を比較することで,頭頂連合野からの制御が形状認識の どの過程にきいてくるかを理解する手がかりが得られる. <質疑応答>(敬称略) 岡田:頭頂連合野はあまり形態の認識に関係がない といわれているが,アルツハイマー患者の例 以外に仮説を支持する知見はあるか. 内藤:認識すべき図形のパーツは理解できるが, その全体的な意味は理解できないという 症例がある.これは頭頂連合野の損傷により生じると 言われている.よって頭頂連合野が図形の全体的まとまり を作るのに用いられていると考えるのは自然である. 橋本:この実験例では,要素を構成する記号として すべて均質に同じものを用いているが, これは特殊な条件ではないか. 要素を構成する記号は異なるものを 用いるべきではないか. 内藤:確にそうだが,出力をとるときに,要素を構成する 記号が多くあると余計な時間がかかる. 中村:刺激全体を表している記号と要素となっている記号 が同じである場合とそうでない場合では反応時間が異って くると思われるが,反応時間とニューロンの活動時間 はどのような関係であることを想定しているか. 内藤:実際,見えと形状のコードは異ると考えられる. よって,必ずしも反応時間とニューロンの活動が 一対一に対応していないといえる. むしろ,TE野の段階では知覚として生じていなくても 発火が同程度に起きていても不思議ではない. 中村:では,反応時間はあまり考えないということか 内藤:しかし,この仮説では一対一に対応していると仮定している. 岡田:この実験では具体的にはどのような発火 が得られることを期待しているか. V1はローカルなdetectorであるが, いまの場合はパターン認識が関係していると思うが. 赤崎:反応に関しては,有意な活動パターンが得られるまでの 間に差が出てほしい. 岡田:relaxation timeが違うということか. V1は線分に反応するだけだが,temporalな wave formが変ることを期待しているのか. 赤崎:実際には,タスクの中で,normalな条件ではサンプル刺激の 要素を構成している記号は見えないような,SC呈示時間で 実験を行う.SC呈示時間を変化させることで, 要素を構成している記号は見えるか見えないかをやってもらいたい. よって,呈示時間が異るとrateでは比較できないので, wave formか立ち上がり時間に差がでることを期待する. また,パターン認識で差が出ないように'3'とか'5'という 数字ではなく'+'とか'-'という単純な図形を用いた. ---------------------------------------------------------------- タイトル:A Study to Verify Synfire Chain in the Human Brain 発表者 :伊藤 秀昭     井上 真紀    加藤 荘志 @   土肥 英三郎     森本 淳 一つの多義図形を刺激とし,二つの状態を励起することで, Synfire chainがneural codeであり得るかどうか確かめる. また,複雑な課題を行うために,ヒトを被験者にする. 被験者としては文字認識を行う領域付近の手術を行う患者を想定する. また,fMRIを用いてあらかじめ課題の遂行に関係のある領域を 特定しておく. 刺激としては'木目’という二つの文字を用いる.’木’と’目’ の間の距離は’相’として認識されるまで,連続的に縮められる. 一旦’相’と認識されたら,今度は’木目’と認識されるまで 距離を広げる.これらの過程は10秒間繰り返される.刺激は 被験者の前に呈示され,’木目’が’相’か’木目’のいずれ に見えるかを二つのボタンの内の一つを押すことで被験者は報告する. 被験者が課題を行っている間,ニューロンの活動は事前に決定した 場所で細胞内記録を行う. まず,’木目’刺激に対して強く発火するようなニューロンを探す. その結果,’木’と’目’それぞれに対応するSynfire chain が見つかるとする.すると,’木’と’目’の両方の刺激を 被験者に呈示したとき,それぞれの刺激に対応するSynfire chain は同期しているか,または同期していないかの状態を取ることになる. 非同期になっている間は,被験者は二つの文字を別々に認識し ,また,同期している間は被験者は刺激を一つの文字として 認識することを期待する.この同期,非同期は 岡田先生のCoupled oscillatorモデルにおける, 同相,逆相状態に対応していると考えられる. さらに,非同期の間は’木’,’目’それぞれに対応する Synfire chainに含まれるニューロンの間に相互作用はないが, 同期している間は,たとえば’木’Synfire chainに属する ニューロンの発火が’目’Synfire Chainに属するニューロン の発火を促すと考えられる.よって,同期が起こっているかどうか は,Efficacy,つまり(post-neuronの発火確率)/(pre-neuronの発火確率) などで測定することができる. <質疑応答>(敬称略) Aertsen: このモデルを提案するのはクレイジーだ. このモデルはCoupled oscillator model とEffect connectivity modelとSynfire model が併合した壮大な統一モデルになってしまっている. また,Grandmotherモデルにもなっている(つまり 一つの記号を一つのSynfire chainで表している). そうすると,それぞれの文字(’木’や’目’)に対応する 細胞を探さなければならないが,これは困難である. ところで,この実験ではIT野に損傷のある患者を想定してるのか? 伊藤:正常な被験者を想定している. 岡田:サルを使った実験ではだめか. 伊藤:実験方法を修正して,サルで実験を行う ということは,選択肢として考えられる. Aertsen: 二つの文字を近づけたり遠ざけたりする実験で, どれだけの距離を離せば,あるいは近づければ 見えが変化するのかということを,どの異るモデル がよく予測するのか,たとえば,Coupled oscillator なのか, あるいは,Binding synfire chainなのか を検証するのは意味があるのではないか. 藤井:この実験はSynfire chainの存在を確かめるという よりは,Binding problemに関する実験ではないか. --------------------------------------------------------------- タイトル:音長知覚における神経相関の役割      The Functional Role of Neuronal Correlation     on Tone Duration Discrimination? 発表者 :加納 慎一郎    加藤 英樹    高橋 晋 純音をサルに提示し,A1ニューロンの発火を見る. すると,提示音のon-setとoff-setのところではrate が上がるが,音の提示中と提示前後ではrateは変らない. しかし,A1の任意の二つのニューロンのcross correlationを 取ると,提示前後はほとんど神経活動相関がないのに, 提示中はかなり相関が上がり,また音の長さによって かなり相関が変化しているということが知られている. [deCharms and Merzenich 96] そこで,神経活動相関の機能的な役割について 考える.具体的には,神経活動相関の時間的変化が音長コード に関係があるのかどうかを,音提示中に神経活動相関を消失 させたとき,サルの音長知覚特性がどのように変化するか を見ることによって検証する.そこで,次のような実験を考える. まず,1,2,3secの音長を使用した音弁別課題によりサルを訓練する (trial感覚が1sec,提示終了後500msec後にキューを出す). その後,deCharms and Merzenichの実験の追試を行い (音提示中の神経活動相関の時間的変化の検出), つぎに,作用薬 Xを投与した状態で同様な実験を行う. その際,データは音提示中のニューロン活動を可動式の tetrode14本を頭頂よりA1に刺入することで計測する.また, クラスターカッティングにより神経活動を分離する. 望まれる結果は,作用薬 X投与後,音提示中に神経活動相関の 時間的変化が消失し,かつ音長知覚ができなくなることである. この場合,A1において音長のcodingが行われており,かつ 神経活動相関が音長知覚に関係していることが 導かれる.つまり,temporal codingの聴覚情報処理 への関与,さらには脳の情報処理全般への積極的な関与 が示唆される. 一方想定される問題点は,作用薬 X投与後,音提示中に 神経活動相関の時間的変化が残り,かつ音長知覚ができなく なることである.この場合,一意の解釈ができないため, 他に検証実験が必要と考えれれる. 作用薬 Xとして当初Achを選んだ理由は,Achの投与によって Depressing synapseの効果が小さくなるという知見があるからであり, また,Depressing synapseは神経活動相関の検出に関与している という報告が[Senn 98]においてなされているためである. つまり,相関が検出できないと知覚ができなくなるという理由で選んだ. <質疑応答>(敬称略) 酒井:神経活動相関が一意に上がったり下がったり しているということはないか. 加納:そういうことはなく,がたがた変化する. 酒井:ということは,音の長さをコードしている ということは考えにくいのではないか. 最低限音が出ていることはコードしている ということか. 加納:神経活動相関のアンサンブルによって 長さをコードしているのではないかと考える. 田仲:自発発火はあるのか(on-set, off-set 時以外に神経活動はあるのか). 加納:音提示中と音提示前後での自発発火は同程度に存在する. 岡田:サルの気持になって考えると,tonicな音が何秒聞こえるかを 内的な時計で数えているのではないか.すると, tonicなものに反応するcellをどうやってつくるか という話にはなるが,直接音長をコードしている という話にはならないのではないか. 加納:人間の心理物理実験でもそのあたりが問題になっていて, 音が長くなると数えられてしまう.本当は音が短く, 1秒以下とかであれば数えあげるということはできなく なってしまうのだが,相関を取るために音を長くしなけ ればならなかった. 酒井:神経活動相関の時間的変化が音長に 関係していることをより明確に示すためには, 神経活動を非同期にさせるような抑制刺激を 神経細胞に与えた時,音が無くなったと 知覚されるということを確かめればよいのではないか. 岡田:Sennのモデルでは,Depressing synapseで同期が生じて いるわけではなく,部分的な同期を検出するのに Depressing synapseを使っているということなので, Achを使うことを考えた論理はおかしくないか. 加納:弁別のためには,検出をする必要があり神経活動相関を 検出するときにSennのモデルが使われていたとすると, Achを投与することでそのメカニズムがダメになれば 良いと考えた. -----------------------------------------------------------------------