最終日 仮想研究計画Bグループ レポーター:我妻広明 ----------------------------------------------------------- [B1] 題名:  Dynamic synapse in hippocampal CA1 area 発表者:  久保 雅義  小林 祐喜  橋本 和歌子  広上 大一郎 概要:  小林らの海馬の研究(JNNS in 札幌)を基礎にモデルを提案する。実験は、刺激A を海馬CA3からCA1に伸びるさいぼうとくせいShaffer側枝に、刺激BをCA1の出力層の 一つであるStratum oriensに与え、それらの時間差によってCA1のシナプス結合がど う変化するかを調べたものである。刺激Bは、CA1へのBack-Propagationを目的とした もので、刺激Bの2s間隔の周期刺激に対して刺激Aを時間差τずらして同様に刺激する 。その結果はτ=0のときLTP、τ=100msのときシナプス変化なし、τ=1000msのと きLTDであった。これは、τ=0,100msの結果はMarkramらの結果と一致する。  モデルはpost側の活動電位の変化から仮説を立て、時間差に対応するシナプス可塑 性を説明するものである。postの活動電位は発火の後減衰し、低い電位が1sから2sの 期間持続するものと考え、活動電位の微分、つまり外部からの電流の流入量としての 変化がシナプス可塑性に寄与していると仮説を立てた。pre側の活動電位の開始時刻 がpost活動電位の微分に対しての関係を考えると、τ=100msでは電位の変化量が低 いためシナプス変化がないが、問題のτ=1000msのときは電位が一端下って上がると きに、外部からの流入があるために起こると説明できる。 質疑(敬称略): 酒井:図で示したような2sほどの長い膜電位変化は実際あるのか。 発表者(小林):発火した後のAfter-hyperpolizationあるいは Long-hyperpolizationが長いときは1s程度続くことは調べられているはずです。 酒井:図によると膜電位は50msから70msの付近でピークになると。 発表者(小林):ピークについてはあまり正確とは言えません。大まかに図示してあ ります。ピークはほぼ数10msかそれ以下あたりと思います。 酒井:時刻0で刺激Bを与えた結果としてスパイクを出す訳ですか。 発表者(小林):EPSPが来た後、閾値を越えることでスパイクがでます。そのスパイ クを出した後のAfter-hyperpolizationが1sより長く続く。EPSPとスパイクを電位の カーブとして図示してあるので、この図ではシンプルすぎるかもしれない。 酒井:100ms付近で0に戻るというのはよろしいですか。 発表者(小林):おそらく問題ないはずですが、ここでは仮説の一部としても構いま せん。 加納:さっきの関連質問ですが、その長時間の変化というのは一般的な現象なんでし ょうか。 発表者(小林):発火した後の現象としては一般的と考えて結構です。 After-hyperpolizationが2sぐらいに図示してあるのは行き過ぎかもしれませんが。 銅谷:こういう時間変化があるというのは、必ずしも膜電位と直接考えるよりも細胞 内のある種のダイナミクスと考える方がいいかもしれません。 酒井:膜電位と関連していると仮説を立てるならば、Voltage-Clampなどで操作的な 実験が可能と考えられます。その方が仮説の検証としてはすっきりするのではありま せんか。 発表者(久保):Voltage-Clampなどをするそのと細胞が1回しか使えないと聞いたが 、LTP,LTDの変化を見るためには相当回数が必要と思われるが。Markramらも50回は測 定している。 銅谷:酒井さんが指摘したのは膜電位をしっかりコントロールするということで、可 能でしょう。 岡田:Clampして同じ実験をすればいいのだから、50回くらいはできるでしょう。 [B2] 題名:  初期聴覚野における細胞特性とその形成原理 発表者:  雨森 賢一  伊藤 真  黒田 真也  渡辺 丈夫 概要:  まず、一次聴覚野は情報量最大化原理に基づいて情報表現しているという仮説を立 て、細胞特性の形成原理を説明するモデルを構築する。その結果を生理実験によって 解析しモデルの妥当性を検証する。背景としては、一次視覚野の細胞特性が受容野と しての場所と方位選択特性があることと、Linskerの提案したInformax、つまり出力 層での情報量最大化の原理である。基本的には、一次聴覚野の細胞特性は視覚が2次 元性に対応して周波数-時間空間における細胞特性分化を想定する。  モデルは、基本的にはLinskerのモデルと同じであるが、異なるのは入力部におけ る周波数分離の処理と時間的な情報のコーディングのためのDelayの考慮である。サ ルの鳴き声を入力として与え、そこで入出力の相互情報量を最大化するようなダイナ ミクスを考える。入力層から一次聴覚野への投射は可能な限り実験データを反映させ る。結果として期待されるのは、周波数および入力の持続時間に対応する細胞特性の 分化である。実験はサルの一次聴覚野の細胞特性を電気生理学的に計測記録する。そ こで、各細胞のもっとも反応する周波数帯および刺激の持続時間について調べ、モデ ルの結果と比較して解析する。更なる課題としては音圧の変化に対する細胞特性の考 慮や一次聴覚野の情報表現地図の作成などである。 質疑(敬称略): 加納:モデルの入力層の部分ですが、一次聴覚野の層に入る前の前処理はするんです か。 発表者(伊藤):フーリエ変換など周波数の分離の処理をします。ここではあまり具 体化していませんが。 加納:時系列の入力で持続時間が違うだけだから、簡単な前処理では duration-specificなcellは形成されるかは疑問ですね。 発表者(伊藤):逆にお聞きしたいが、適当な前処理はどのようなものが考えられる か。 加納:例えば、昔のモデルであれば、Tap-delay-lineを用意して、そこに横から入力 を入れて、時系列を空間パターンに変換する方法があります。それがもっとも古典的 です。 発表者(伊藤):そういう効果であれば、delayのconnectionを多数用意してあるの で、一応モデルには組み込んであります。 銅谷:delayのτは異なるものを用意する訳ですね。 岡田:このモデルは3層とも学習するのですか。また、結合荷重はInfomaxによって収 束するのか。 発表者(伊藤):そうです。Linskerと同様、各層毎に学習させ、収束してから、次 の層へと進みます。 銅谷:このような研究では、結構様々な特性のニューロンが調べられていますが、興 味深いのは単純に周波数やdurationに反応するというのではなく、周波数の組み合わ せや周波数の時間的なmodulationに反応する細胞はあることがわかっていることです 。このモデルで言えば一次聴覚野の層に対応するものと思います。そういうことを考 えると、Informaxのような原理でFM変調や視覚野で言うところのGabor-functionのよ うなものが周波数空間で形成されるのかが問題ですね。 岡田:ATRでこれに近い研究を進めている方がいますね。 発表者(伊藤):もうひとつお聞きしたいですが、感覚器から一次聴覚野に至る経路 は、視覚系と比較してどう違うかです。視覚であれば、基本的には網膜、LGNと経由 してくる訳ですが。 加納:イメージとしては、視覚系と同様と考えていいと思います。問題になるとすれ ば、多少迂回してくる求心性経路もあって、その役割はまだ不明確ですが。 酒井:実験との対比は興味深い。例えば、縦縞のスリットの中で育てたネコのように ホワイトノイズを聞かせ続けたネコとある特定の周波数しか聞かせなかったネコと比 較したとき、情報量最大化の原理から違いが出てくるかもしれない。そういった観点 で実験とモデルを比較できれば面白いのではないか。 [B3] 題名: 一次視覚野の同期活動は情報のキャリアであるか? ~ Is the information really encoded in synchrony ? ~ 発表者:  酒井 裕  中村 民夫  原田 謙一  我妻 広明 概要:  Singerらの実験結果を背景に、一次視覚野の同期活動が情報のキャリアとして寄与 しているかどうかを検証する。彼らの結果によれば、ニューロンの各受容野に同一物 体があるときはそれらの活動に同期性が見られ、別々の物体であるときは同期性が低 いというものである。ここでは、その同期性が、より高次領野からのトップダウンに よる同期なのか、層内あるいは近接した層での相互作用を含めたボトムアップによる 2次的な同期なのかを明確にすることを目的とする。実験に際しては、盲点を挟んで 受容野を持つようなニューロンでかつ同期活動を示すようなニューロンを一次視覚野 からマルチレコーディング等によって、探すものとする。そこで、両眼視で盲点を挟 んでSingerの実験を再現した上で、片眼視で実験する。同一物体としての線分の移動 において、盲点に入る前は一本の線分、盲点に入った時点で線分を分離させる。この 結果、同期活動するならばトップダウン、非同期ならばボトムアップと考えられる。 更に発展した実験としては、ニューロンに直接刺激を与えることなどで同期性を誘発 し、同期活動が行動タスクに反映されるかどうかを調べることが考えられる。 質疑(敬称略): 土肥:Singerらの実験との違いはなんですか。 発表者(酒井):この場合、Singerらの実験を再現することは、前提条件です。更に 盲点を挟んだ受容野を持つようなニューロンで実験することです。 土肥:同期性が行動に反映されるかどうかを検証することが、大きな違いですか。 発表者(酒井):同期性が同一に物体が見えていることに、本当に効いているのかど うかが問題です。 発表者(我妻):認知といった高次のレベルで、同期というものが情報処理に本質的 に関っているか、それならば行動にも反映されるであろうということです。 銅谷:Singerらの結果は詳しくは忘れたが、2つのニューロンに対して一本の棒で刺 激する場合と、二本で同じ方向に動かす場合と、二本で逆向きに動かす場合など、そ れぞれどう違いましたか。 発表者(酒井):逆向きに動かす場合は、ほとんど同期せず、Oscillationもあまり 見られなかった。同じ方向に動かす場合、同期はしないが、Oscillationは見られる 。同一物体の場合は同期するという結果のはずです。 銅谷:まったくの非同期、同期というのではなく、段階的な変化があるはずで、その 辺がシビアに出せるかですが。 発表者(酒井):ここでのポイントですが、前提条件として、盲点で端点をもつよう な幅で同一物体に見えるようにした場合とそうでないときであきらかな違いがないと 実験は成立しません。 土肥:盲点を挟んだ上に線分がありましたが、それはむしろ盲点の中で動かすべきで はないか。線分を動かす過程で先に同期していた影響から同期してしまうということ はないのか。 発表者(酒井):この実験では同期した場合の解釈は多くあります。逆に同期しなか った場合の結果は2次的な作用であったとクリアに出ます。そういう意味では同期し ない場合を狙った実験とも言えます。 岡田:V1でなくても、その上の領野からの作用ということも考えられる。partialな 同期をしていて、それをdetectすることも考えらますが、この計画ではあくまでV1で ということですか。 発表者(酒井):もちろんそうですが、とりあえずV1で確認するということです。 藤井:盲点を挟んで同期するということについては、filling-inという問題があるわ けですね。 岡田:もちろん、この場合はfilling-inが起こっていることを想定していますね。 藤井:perceptとしては、filling-inが起こっていて有限な範囲に伝播する相互作用 を考えなくてはなりませんね。 岡田:完全には同期しなくても、途中まで同期活動が来ているような可能性も考えら れます。 発表者(酒井):そうですね。明確に示すには行動実験において検証する必要があり ます。 岡田:実験は可能だと思います。discrimination-taskで2つか1つかを判別させれ ばいいだけではないかと思います。 -----------------------------------------------------------