会長就任あいさつ
日本神経回路学会は五味裕章前会長の主導のもと,2022年9月に一般社団法人として再スタートを切ることができました.その2代目の会長に選任いただいた私の使命は,この新たな枠組みのもとにより多くの人を集め,神経回路の基礎研究と技術開発のコミュニティを活性化し,その社会へのインパクトを拡げていくことと考えています.いわば「神経回路学会2.0」を会員の皆さまと共に創っていくことです.
2012年のImageNet Challengeでディープラーニングブームが巻き起こってから10年あまり,神経回路技術は画像・音声認識から,強化学習によるゲームやロボット制御,GANや拡散モデルによる画像生成,さらにTransformerによる自然言語応答など次々と新たな展開を見せ,社会的に大きなインパクトを与えるに至っています.また脳科学やバイオ情報学だけでなく,物理学,化学など科学のあらゆる分野でディープラーニングが新たな研究の芽を生んでいます.日本神経回路学会の会員数は現在約500名ほどですが,今日の神経回路の幅広い活用を考えれば,大学や研究機関だけでなく企業を含めその数倍の人が加わっていてもおかしくありません.
ディープラーニングの起源は当学会の創設役員である甘利俊一先生,福島邦彦先生らのきわめて先駆的な研究にありますが,近年の世界的な激しい競争のもとで,先進的,独創的な研究と応用を育み出すために,日本神経回路学会はどのような役割を果たすことができるでしょうか?現在日本では理研CBS,AIPをはじめ学術変革領域やムーンショットなど,脳科学とAI研究にフォーカスした先進的な研究プロジェクトが多数走っています.神経回路学会はこれら多様な分野の研究者をつなぐ存在として,脳にならったAI 技術の開発や,神経回路技術の脳科学をはじめ様々な分野への応用をさらに促進することが可能なはずです.これまで,毎年の大会と論文誌,機関誌の出版に加え,ASCONE,脳と心のメカニズムワークショップ,ニューロコンピューティング研究会などの主催,共催によりその役割を果たしてきましたが,研究成果の発表の場だけでなく,新たな研究を生み出す情報交換と議論の場を,オンラインセミナーやソーシャルメディアなど含めて多様な形で提供することが考えられます.
また,これまで学会とはあまり縁のなかった高校生や学部学生,産業界や一般市民の方々に向け,神経回路の基礎からGPTなど最新の技術を正しく理解してもらい,神経回路研究の裾野を広げていくことも重要です.例えば当学会ともなじみの深い神経科学学会では,市民公開講座,TEDトーク風の「脳科学の達人」,産学連携シンポジウム,ダイバーシティ企画など,参考にすべき様々な活動を行っています.
新しく生まれ変わった日本神経回路学会を,これからどう育て活かしていくか,ぜひ会員の皆さんのご提案とご参画をお願い致します.
・2021~2022年度 会長挨拶
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・2013年度 会長挨拶
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